『剣遊記T』 第三章 押しかけパートナーと天然系依頼人。 (16) 最後まで全裸で押し通した美奈子。
性格がまるで読めない弟子の千秋。
この一風も二風も変わった師弟を部屋に置き、廊下に出てからだった。孝治は胸に溜まった疑問と憤懣を、一気に周囲へとぶち撒けた。
「な、なんやっちゅうとね、あんふたりはぁ!」
孝治の頭はカッカッカッと、大噴火寸前の活火山状態になっていた。
「あげなふたりの護衛が、今度の仕事っちゅうんけぇ! 師匠は迷惑な趣味の持ち主で、露出過剰な天然系やし、でもって弟子は泣き虫で、とことんムカつくガキンチョばい! こりゃムチャクチャ先行きが見えん仕事になるっちゃよ!」
しかし友美は、自分自身もふたり(美奈子と千秋)によって面喰らわされた立場であるにも関わらず、孝治よりは冷静な態度を維持していた。
「そげん文句ば言うたかて、仕事はもう店長が決めたことやけね☻ やけん今さら『降りる』なんち、できん、っち思うっちゃよ★」
「それなんよねぇ☛」
孝治は歯ぎしりを繰り返した。こうなると当然攻撃の矛先は、黒崎店長に向く話の展開となる。
「こげんなったら行く前に一発、店長にガツンち言うとかにゃ、おれの気がグラグラこいたまんまやけ!」
「店長やったら、今んとこ留守やろ✈ 夕方まで帰らんち、言うとったろうも☠」
「あっ、そうやった♨」
友美から肝心なことを指摘され、孝治は振り上げた拳{こぶし}の下ろし先を失った。だけど口は止まらなかった。
「そ、そんならぁ……帰ってくるまで待つったい!」
『まあまあ、ふたりとも落ち着きんしゃい♥』
ここで、今まで割とおとなしくしていた涼子が、孝治と友美の間に入ってきた。幽霊なので、とても入りやすい身の上でもあることだし。
『確かにおもしろか、おふたりさんやったばいねぇ☺ まあ、あたしとしては、冒険の醍醐味が増えた感じやけ、胸ばワクワクさせとうとこやけどね♡』
涼子の(半透明の)顔には、話の展開がいかにも愉快になってきたと言うような笑みが浮かんでいた。
「死んで心臓ば止まっちょうくせに、胸ワクワクもなかろうもん☠」
孝治はムキになって、涼子の(無責任)言葉に噛みついた。だけどもやっぱり、嫌味としては、いまいちの出来ばえ。それを自覚した孝治は、話の矛先を元へと戻した。
「それよか、おれは絶対、店長に文句ば言うけね♨ もう止めても無駄っちゅうもんやけ☠」
これに友美は、スプーンもフォークも投げ捨てた態度で応じてくれた。
「あ、そう☺ わたしたち、お望みどおり止めんけね☠ もう勝手に行ってきや☞ わたしと涼子は美奈子さんの部屋で待っちょるけ☀」
「じゃ、じゃあ、行ってくるけ! おれがもし玉砕ばしたら、あとで骨でも拾ってや☃」
どうしても友美には勝てない孝治の、情けない捨てゼリフであった。それからわざとらしくバタバタと荒い音を立て、孝治は一気に階段を駆け下りた。
ちなみに現在、時刻はお昼を過ぎたばかり。店長が帰る予定の夕方まで、かなりの時間が余っていた。 (C)2010 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |