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『剣遊記T』

第三章 押しかけパートナーと天然系依頼人。

     (15)

「あ〜〜ん! 千秋は小学生やないでぇ! 立派な十四歳やぁ!」

 

 強気の権化かと思っていた千秋が、突然おいおいの大号泣。

 

 (自称)大阪出身で、ムチャクチャ手強{てごわ}そうに見えていた千秋の、百八十度すぎる大豹変。

 

 この見事過ぎる変わりようで、孝治は大いに度肝を抜かれた。

 

 おまけに見た目よりも、遥かに年齢が上であった、意外な事実。

 

「うわっち! じゅ、十四歳!?」

 

 まさにビックリ仰天ものだった。

 

(と、歳も驚いたとやけどぉ……ほんとはこいつ、メチャクチャ芯が弱いんちゃうけ?)

 

 孝治は違う意味で、何度目かのタジタジ思いとなった。ここで空気を読む力を鋭く発達させている友美が、これまた見事な機転を働かせてくれた。

 

「ま、まあ、美奈子さんと千秋ちゃんは今からお食事みたいやけ、仕事の打ち合わせはまたあとで、っちゅうことにしとこっか☆」

 

 それから孝治の右手を両手でつかんで引っ張り、部屋から出るようにうながした。孝治もこの流れには、ウンともスンとも言えなかった。

 

「じゃ、じゃあ、またあとで来ますけ☢ 先にお食事ばどうぞ!」

 

「はい、そうさせてもらいますえ♡」

 

 瞳の前で弟子が、わんわんと泣いている状況下だった。なのに美奈子はこちらはこちらで、我関せずの澄まし顔でいた。

 

ところが師匠の冷静――というか冷徹ぶりに合わせたのだろうか。千秋が今度は、突然ピタリと泣きやんだ。

 

「ほな、千秋も飯にするわ♪」

 

「うわっち!」

 

 たった今までの号泣を早くも忘れ果てたかのようにして、師匠といっしょに、平然と食事に入れる離れ業。それを孝治と友美(と見えていないだろうけど涼子)に見せつけてくれたのである。


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