『剣遊記T』 第三章 押しかけパートナーと天然系依頼人。 (13) とにかく、なんとなく記憶に引っ掛かる――の問題は棚上げ。そこへドアがガチャンと、いきなりにぎやかに開かれた。
ノックもなにもなしで。
「師匠、今帰ったで! なんやお客さんかいな☆」
入ってきた人物たちは、三人の娘。その中で先頭に立ち、瞳を大きくポッカリとさせている子は、これまた初めてお目見えする、茶色の髪をした童顔の少女であった。
また、少女のうしろにいるふたりは、未来亭の給仕係である、朋子と桂。どうやら仕事で、少女に同伴しているようだ。ふたりとも食事を載せたトレイを、しっかりと両手でかかえているので。
「にゃ、にゃんねぇ、孝治くんに友美ちゃん☞☜ こげにゃとこでにゃんしよんね?」
朋子は絵に描いたような、まさに青天のへきれき顔。桂も声こそ出してはいないものの、やはり同様の顔付きとなっていた。
孝治は頭に血が昇る思いに耐えながら、必死の言い訳を並べ立てた。
「にゃ、にゃんしよんねっち言うたかて、そりゃ仕事の打ち合わせやけ⛽ いつもやりようことやろ……♋」
しかし朋子も桂も、視線を孝治から外していた。
当然、全裸姿のままでいる、依頼人である美奈子のほうへと。
つまりがこれでは、言い訳がまったく通じない状況。いくら話し合いだと強弁したところで、片方は完全に、それにふさわしくない姿でいるのだから。
無論朋子も桂も、孝治の正体(?)を知り尽くしている。なので事態を完全に危険な状況だと、ある意味において、正しく認識したに違いない。
孝治ももちろん、苦しくてヤバい状況を認識していた。
「と、とにかく! 仕事の話がまだ済んじょらんけ、早よ一階に戻りや! お、お店が忙しいとやろ!」
こうなればほとんどヤケクソで、朋子と桂を背中押し。
早いところ、部屋から追い出すために。
「ちょ、ちょっと! そんなに押すのせなれんで! いなげな孝治くんやねぇ♨ あたしらこの部屋まで、昼食持ってきたんぞなぁ!」
桂が必死になって伊予弁でまくし立て、両足を踏ん張らせて、力任せの孝治に抵抗した。
こうなると桂の底力は、なぜかけっこう強かった。しかし孝治とて、必死である。
「な、なら、早よメシば机に置きんしゃい!」
「言われんでも置くにゃん!」
朋子がプックリと、ほっぺたを誰かさんのようにふくらませた。
けっきょく桂と朋子は、孝治から急かされる格好。ふたりともブツブツと文句を垂れながら、美奈子の部屋をあとにした。
最後にひと言、朋子がきつい痛撃を残してくれた。スカートの下から伸びている猫型しっぽを、左右にプルプルと振りながらで。
「孝治くん、おんにゃん子で良かったにゃんねぇ☠」 (C)2010 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |