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『剣遊記[』

第一章  女格闘士、御来店。

     (8)

「あれれ? ボクが思うとったんと違う展開になってしもうちょるばい♋」

 

「うわっち、徳さん、やっと来たっちゃね☆」

 

 今ごろになってのこのこと、清美の子分である徳力が、ひょっこりと顔を出す。徳力は背が低くて短足気味のドワーフなので、長身の清美から、さっさと置いていかれたに違いない。そんなドワーフに気づいた孝治は、すぐに話の流れを教えてやった。これはちょっとした、親切心のつもり。

 

「ああ、本来やったら女武者同士の壮絶なにらみ合いやったかもしれんとやけど、でも清美んやつ、三枝子さんの話にすっかり感動ばしてもうて、これまたすっかり女同士の友情ば創りあげちゃったっちゃね☺ これがなんか、嵐の前触れやなかったらよかっちゃけどねぇ☻」

 

「おっ、トク、こぎゃんええとこに来たばいねぇ♥」

 

 孝治と徳力のふたりで、ひそひそしているところだった。清美が目ざとく、自分の子分に目を付けた。もちろんすぐに、手招きで徳力を呼び寄せた。

 

「今すぐばってん、あたいとぬしの冒険申請ば出してこんね✈ 日数は未定✄ 目的はフェニックス探しばい✐ てれ〜〜っとせんと、早よ行ってこんね!」

 

「あっ、はいはい!」

 

 清美から命ぜられるまま、徳力が階段を駆け上がり、二階の事務室へと向かった。

 

短い足で、一生懸命に。

 

ここ未来亭では、専属する戦士や魔術師などが私用で冒険に出かける場合、必ず店長である黒崎健二{くろさき けんじ}氏に、申請書の提出が義務づけられていた。ここで意外な話なのは、豪傑で名高い清美でさえも、規則にはとても従順な姿勢にあった。

 

「すみましぇん……こげなあたしんために、そこまでしてもろうてからに……☂」

 

 三枝子が清美に向け、深々と頭を下げて礼を言う。

 

 孝治は思った。たぶん真相は、清美のあまりの強引さに圧倒されたもんやけ、断ることができんかったっちゃろうねぇ――と。しかし突然の強引でも、協力者が現われた話の展開は、とても心強いに違いない。

 

「よかくさ♡ あたいとあたの仲なんやけ✌ それよかねぇ……☀」

 

 たった今できたばかりの即席関係であるにも関わらず、三枝子のお礼に清美は有頂天となっていた。そのついでか清美は、しばし考える仕草で両腕を組んだ。それから周囲を見回し、わざと周りに聞こえるように言っているとしか思えないセリフを吐いた。

 

「相手はフェニックスばい……そげんなりゃあたいとトクばっかじゃ、まだまだ戦力不足ばいねぇ〜〜☻」

 

 このとき清美の目線は、明らかなる横目気味。その瞳に引っ掛からないうちに、孝治と友美と裕志は、この場から離れようとしていた。

 

 こっそりと清美に背中を向けて。

 

「トクっ! 申請三人分追加ばぁい! 孝治と友美ちゃんと裕志ん分も出しときんしゃいよぉ!」

 

 孝治は思わず舌打ちした。

 

「うわっちぃ〜〜っ! 遅かったっちゃねぇ☠」

 

 ここ未来亭では、清美に逆らえる命知らずな無謀者は、ひとりも存在しえないのだ。


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