『剣遊記[』 第一章 女格闘士、御来店。 (12) 同時刻。裕志の部屋は、超一大事の真っ最中となっていた。
「てめえっ! あしたはこんオレに黙って、阿蘇まで行くつもりやってなぁ! いったいなんする気なんね、こん野郎ぉ!」
「い、いえっ! 別に隠しちょったわけじゃ……痛たたたたたたたっ!」
裕志が『あん人』こと荒生田和志{あろうだ かずし}から四の字固めで攻めまくられ、自白を強要されていた。
荒生田は裕志と孝治の先輩戦士で、それなりに腕は立つし、武勇伝もある男。しかし、いつも黒いサングラス😎を愛用している外見からもわかるとおり、根っからの遊び人で大のお宝好きであり、極めつけが女性大好きときているのだ。
だから女性化した孝治は荒生田の絶好の獲物{カモ}となり、元が男と知っているにも関わらず、年がら年中所構わずで追い駆け回している。
このような理由で、孝治は荒生田の同行を、いつも異常と言えるほどに恐れていた。
しょーもない話ではあるが。
「おらおらおらぁ! 早よ白状せんと、ほんなこつ足ん骨がポッキリ折れちまうけねぇーーっ!」
裕志の両足にかけられている四の字固めが、さらに力を増していく。もともと意気地というものがカケラもない裕志に、この拷問に耐える根性は絶無である。
「ひえええん😭! 言います言いますっちゃよぉ! 阿蘇にフェニックスば捕まえに行くとですぅーーっ!」
「フェニックスやとぉーーっ! 目的はなんねぇーーっ!」
「は、はい! きょう店に来た畑三枝子さんの依頼でぇ、フェニックスの血ば採りにでぇーーっす!」
「ゆおーーっし! わかったぁ!」
そこまでしゃべらせて、ようやく荒生田は、裕志にかけた四の字固めを外してやった。このあとはもう、芋づる式に裕志は白状するのみだった。ペラペラペラと。 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |