『剣遊記13』 第一章 天才魔術師のお見合い。 (8) 「それから秋恵ちゃんには孝治くんのこと、もう一から百まで事前に教えとうけ、今さらなんの隠し事もせんでいいけね☻」
「うわっち!」
律子のよけいなセリフで、孝治は思わず椅子から立ち上がった。
「一から百までっち……もしかしておれんこつ全部ね?」
頭に少々血が昇りつつある孝治へ、律子がヌケヌケと言ってくれた。
「そうばい☻ 別になんの隠し立てせんかてよかろうも★」
同時に秋恵ちゃんも。
「はい♋ 先輩からみんな教えてもらいました☆」
「あんねぇ……☠」
孝治は同じようにしてうなずくふたり(律子と秋恵)を、改めて見つめ直してみた。しかしこの状況下では、もうなにも聞かなくても解答は出ているも同然と言えた。このような思いの孝治に合わせたわけでもないだろうが、すぐに速攻で、秋恵が答えてくれた。
「はい、律子先輩から聞いちょりますばい✍ 鞘ヶ谷孝治先輩って、体は完全な女ん子ばってん、本当は元男ん子やっちゅうことですね✎✐」
「うわっち!」
孝治は今度は、椅子ごとうしろにズデーンと引っ繰りコケた。でもすぐに立ち上がり、すべてをバラしたとしか思えない張本人――律子に喰ってかかった。
「そ、そげんこつ……わざわざ教えてやらんかてよかろうも♨ 確かにおれかて隠す気なかっちゃけど、言うんやったら自分で全部言うとやけね♨☹」
もちろん孝治の軽い文句と迫力など、律子にはまったく通用しなかった。
「まあまあ、予備知識ぐらい必要不可欠ってもんばいね☻」
「ふう……♋」
孝治はこれ以上のか弱い抗議をやめにした。反対にやるせない思いのため息を吐いた。
「まあ、確かになんも知らんよか知ってくれちょうほうが、こっちも気が楽っちゅうもんやけどねぇ⚽」
ほとんどあきらめの境地は自覚していた。だけどこの気苦労は、どうやら永遠に続いていくようだ。実際孝治性転換の経緯など、もう何十回も繰り返し述べている話なので、今さらこの場での蒸し返しなどはやめておこう。もうひとりの存在のみは、今でも内緒にしているのだが。
それからさらに、律子が話を続けてくれた。
「まあ、孝治くんばっか正体バラすんのもなんやし、秋恵ちゃんの秘密も言うとくったいね☻」 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |