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『剣遊記13』

第一章  天才魔術師のお見合い。

     (7)

「……っちゅうわけったい♐ こん子のこと、いっちょ頼まれてくれんね⛱⛳

 

「あ、ああ……よかっちゃよ⚠⛑

 

 朝食の席で未来亭専属の戦士――鞘ヶ谷孝治{さやがたに こうじ}は、いきなり同僚である盗賊の穴生律子{あのう りつこ}から頼みごとを強要され、正直思いっきりに面食らった。

 

 場所は未来亭の酒場であり、孝治と同じテーブルには魔術師の浅生友美{あそう ともみ}と、もうひとりも同席していた。

 

 このふたりも孝治と同様、瞳をパッチリと真ん丸中。

 

 三人(?)をそれほどまでにさせた律子の急な頼みごととは、ズバリこれだった。

 

「この子、大谷秋恵{おおたに あきえ}ちゃんっち言うと✎ 新人の盗賊でわたしの後輩なんばい それやけど、わたしが産休でしばらく仕事ば休まんといけんけ、そん間だけ孝治くんが面倒みてくれんね

 

 律子は自分の右横に、同じような服装(白い上着に黒の細目のズボン)をした少女を控えさせていた。その少女はなんだか、律子自身をひと回り小さくしたような感じであった。

 

「う……うん☢」

 

 律子の旦那である和布刈秀正{めかり ひでまさ}は、孝治の一番の親友である。その妻――律子からいかにも重大ぶって頼まれては、孝治に断わることなどできるはずがなかった。

 

 それでも言っておくべきこちらの立場と事情は、きちんと言っておかなければならないだろう。

 

「た、頼まれてもよかっちゃけどぉ……おれ今んとこ仕事なかっちゃよ☠」

 

 かなりに消極的な事情の孝治であった。だけども律子は、まったくのお構いなしでいた。

 

「よかよか☆ 戦士とか盗賊の仕事が、そげんゴロゴロしとうもんやなかけん☻ 要は未来亭の日頃のやり方ば教えてくれたらよかとよ✌」

 

「そげんもんかねぇ〜〜

 

 孝治の左横で、友美が頭を右に傾けていた。ジッと黙っている姿勢だが、恐らくまた新たな騒動の予感がしているのだろう。無論律子は全然構わずで、隣りの秋恵とやらに挨拶をうながしていた。

 

「っちゅうことやけ秋恵ちゃん、孝治くんと友美ちゃんに自己紹介ばせんね♪」

 

「は、はい!」

 

 大谷秋恵と紹介された少女は、見てもわかるとおり、緊張で身を固くしていた。孝治と友美ともうひとりを前にして、見事な直立不動の姿勢となって。

 

「お、大谷秋恵と言いますばってん! 以後よろしゅうお願いいたします!」

 

 ちなみに大谷秋恵ちゃんとやらは、孝治と友美に同席しているもうひとりの存在に、たぶん気づいていないはずである。もち律子も。


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