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『剣遊記13』

第一章  天才魔術師のお見合い。

     (4)

「ん? ……師匠、先に起きはったんかいな……

 

 初めに目を覚ましたほうは、姉の千秋だった。その千秋がふと見れば、自分の右側で寝ているはずの師匠――美奈子の姿がなかった。その代わりでもないが、双子の妹である千夏がまだ、すやすやと静かな寝言(?)を繰り返していた。

 

「う〜ん、千夏ちゃん、もう塩大福食べられませんですうぅぅぅ♡」

 

 姉の千秋はため息を吐いた。

 

「しゃああらへんなぁ……千夏も起きりや☀」

 

 きょうは早くから、未来亭への帰路を急がないといけないのだ。千秋はグウグウと寝ている千夏を、横からゆさゆさと揺さぶった。

 

「う、う〜ん……朝しゃんですかぁ?」

 

 姉に応えて妹の千夏も、まだ寝足りない感じではあるが、大きめである瞳をそっと開いた。姉妹そろって茶系の髪の色だが、姉はうしろに束ねたポニーテール。妹はやや天然パーマ気味。それよりも大きなヒマワリ型のブローチのほうが、とても印象的なセットをしていた。

 

 姉の千秋はようやく目覚めた千夏に、ややお小言のような感じで叱咤をしてやった。

 

「う〜ん……やあらへんで☠ 師匠がひとりで外出しよったさかい、ふたりで捜さなあかんねんな♐」

 

「あれぇ〜〜、美奈子ちゃんがぁ、行方不明さんなんですかぁ?」

 

 姉に言われて千夏が、室内をキョロキョロと見回した。小屋の床には、お伴のロバが、今も寝そべっているままでいた。また壁には師匠――美奈子の黒衣がぶら下がっているのも、昨夜から変わっていなかった。

 

 千夏がビックリしているようでいて、どこか抜けている裏返り声を上げた。

 

「それは大変さんですうぅぅぅ♣ すぐぅ千秋ちゃんとぉ千夏ちゃんでぇ、捜しに行かないといけませんですうぅぅぅ♠」

 

「千夏なぁ、おまえ本気で心配しとんかいな?」

 

 あまりの悠長ぶりで、千秋は思いっきりの拍子抜け。もっともこれこそ妹千秋のふだんの姿なので、これ以上のツッコミはやめにした。

 

「それより師匠捜しが先やねんな☄ ほな、行くでぇ♐」

 

 とにかく気を取り直し、千秋はベッドから床に足を下ろした。すぐに千夏も続いたが、そのときにひと言。

 

「トラちゃん、どうしますですうぅぅぅ? まぁだグッスリさん寝てますですうぅぅぅ

 

 千秋は即答で応じてやった。

 

「トラはほっといたらええんや まあいつも荷物を仰山運んでもろうとんのやさかい、今くらいはゆっくり休養してもらおうやないか

 

「はぁいですうぅぅぅ☆☀♡」

 

 返事を戻す千夏の笑顔は、やはり天真爛漫の典型をしていた。


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