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『剣遊記13』

第一章  天才魔術師のお見合い。

     (13)

「お見合い……どすか?」

 

 美奈子は一時的だが、脳内が混乱した。

 

 確かに自分も、二十歳{はたち}の青春真っ盛り(?)。今の年齢ならば異性との本格的な意味でのお付き合いも、決して有り得ない話ではないだろう。

 

 しかし、きょうのきょうまで恥ずかしながら、美奈子は男女の関係を深く考えた経験がなかった。ただひとつの例外を置いて。

 

 これを世間一般的には、一種の『奥手』――または『草食女子』とも表現できる例であるが。

 

 そんな美奈子に黒崎が、机の引き出しから一枚の用紙を取り出して、右手で差し出した。

 

「これは未来亭のお得意さんからの要望なんだが、なんでもそこの当主が美奈子君と是非ともお会いしたいと言ってきたんだがや。これは僕にとっても寝耳に水の話なんだが、一応君の了解も必要かと考えて、この話を持ち出したんだがね」

 

「……うちと会いたい……どすかぁ?」

 

 当の美奈子はまだ、気持ちの整理どころの心境ではなかった。しかし弟子の千秋と千夏のふたりは、早くも興味しんしんの様相。瞳をパッチリとさせていた。

 

「へぇ〜〜、師匠にもついに春が来よったってことやなぁ☆」

 

「ワクワクぅですうぅぅぅ☀ そのぉ会いたいってぇお兄ちゃん、イケメンさんなんでしょうかぁ♡」

 

 男と女の話となれば、弟子の双子姉妹は、実に無責任丸出し。ヤンヤヤンヤの大合唱。美奈子はそんな自分の両側に立つふたり(千秋が右で千夏は左)を交互に見下ろしながら、ふぅっと深いため息を吐いた。

 

「こ、これ、ふたりとも……これは遊びやあらしまへんのやで♐ で、うちに会いたい言うお方は、いったいどちらはんなんどすえ?」

 

 至極当然な美奈子の疑問に、黒崎は淡々とした顔で答えた。

 

「未来亭のお得意さんで、金星堂のご主人だがや。名前は若戸俊二郎。年は僕とそう変わらんようだがね」


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