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『剣遊記13』

第一章  天才魔術師のお見合い。

     (12)

「店長、只今戻りましたどすえ♠」

 

 長旅の疲れも見せず、未来亭に帰り着くなり――だった。美奈子と千秋と千夏は、二階にある店長執務室に入室した。

 

 ふだんは自己中心的な行動の多い三人組であった。だけど規則には妙に律儀でもあるのだ。

 

「いつもながらご苦労だがや。今回も大いに成果が上がったようだがね」

 

 部屋の執務席に座ったままで、店長の黒崎健二{くろさき けんじ}氏が、美奈子から受け取った報告書に目を通した。任務から帰店をした者の義務になっている報告書だが、美奈子の場合は字がけっこう達筆で、文章も上手にまとまっていた。これが孝治の場合だと、字はヘタで文章も雑な書き方が多かった。また荒生田和志{あろうだ かずし}に至っては、報告書など一度も提出をした試しがなかった。

 

「では、うちらはこれでいぬさせて(京都弁で『帰らせて』)もらいますさかい

 

 黒崎と長い会話をする気のない美奈子は、さっさと執務室から出ようとした。この場での会話をすべて師匠に任せ、ひと言も発しなかった千秋と千夏も同様だった。

 

 その三人を、うしろから黒崎が呼び止めた。

 

「ちょっと待つがや、美奈子君たち」

 

「はいな?」

 

 意外な話の流れで、美奈子は少々面食らった思いになって振り返った。その美奈子に、黒崎が言った。

 

「美奈子君はお見合いする気はにゃあがやか?」

 

「はあ?」

 

 美奈子の瞳が当然ながら、真円のド真ん丸となった。


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