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『剣遊記閑話休題編T』

第四章 玄海の波は穏やか。

     (9)

「まっ、とにかくこれで一件落着っちゃね♪」

 

 それから孝治は立ち上がり、貧血でバタンキューしている射羅窯のそばまで寄ろうとした。

 

 そのときだった。孝治の瞳に自分のほうを見つめ、ジッと立ち尽くしている由香たち、給仕係一同の姿が写った。

 

「ん? どげんかしたと?」

 

 変に思う孝治に一同を代表してか、由香が言ってくれた。

 

「ちょっと……孝治くん……今回の武勇伝ば誉めてあげたいっちゃけどぉ……いつまでそんまんまでおるつもり?」

 

「うわっち?」

 

 いきなり変な言われ方をして、孝治は瞳が点の思いとなった。それでも由香は言い続けた。

 

「まるまんま言うて……孝治くんの胸っち、あたしとほぼいい線行っとうし、こん中には明らかに負けとうのもおるっちゃよ☠ なんかちゃっちゃくちゃら嫌味に感じるぐらいにやねぇ〜〜☠」

 

「むね? ……うわっち!」

 

 そこまでのご指摘を由香から受けて、ようやく孝治は、現在の自分自身の状態を再認識した。つまりが水着姿でいる彼女たちの中で、自分ひとりだけが唯一、一糸もまとっていないのだ。

 

「うわっちぃーーっ! 忘れちょったぁーーっ!」

 

 孝治は慌てて、海の家の更衣室に駆け込んだ。そこで今さらながらに思い出せば、自分はとんでもないほど淫{みだ}らな格好で、野郎相手に格闘を演じていたわけなのだ。

 

 あまりにも本気になり過ぎて、多少の羞恥程度しか感じていなかったほどに。

 

「きゃはっ♡ やっぱし孝治くんらしかっちゃねぇ♡ あの慌てモンぷりっち♡」

 

 逃げる孝治の背中に向けて、登志子が無邪気に笑っていた。彼女は自分が人質に取られていた恐怖を、早くもケロッと忘れているようだ。

 

 恐るべき記憶の抹消力とでも言うべきか。

 

 また涼子と友美も孝治のやや日焼けした背中を見つめながら、ふたりしてため息混じりでつぶやいた。

 

『あ〜あ、せっかく悪モンば退治してカッコええとこ見せたっちゅうとに、しゃっちが最後の最後でカッコ悪いっちゃけねぇ〜〜☠ 孝治って、どげん活躍したかて、なぜか英雄になれん宿命なんやろうねぇ☁』

 

「まあ、それもそうなんやけど、どげん活躍したかて、最後の最後で英雄になれんところが、孝治のええとこでもあるっちゃよ♡」

 

『それってなんか、ようわからんちゃねぇ……☁』

 

「今に涼子かて、わかるばい✌」

 

 いまいち納得が行かない感のある涼子に、友美がふふんと微笑んだ。


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