『剣遊記閑話休題編T』 第四章 玄海の波は穏やか。 (8) ヴァンパイアにとっては、とんだ災難であったろう。そんな光景も眺めながら、孝治はひと息吐いていた。
「まっ、やれやれっちゃね☀ これも全部、朋子ちゃんが猫になっとったおかげやね♡ もっとも、あいつが女性にトラウマなんも、信じられんくらいの猫恐怖症なんも、原因は永遠の謎のまんまやけどね♠ で、朋子ちゃんはもう大丈夫なんけ?」
孝治は気になって、うしろに振り返ってみた。その朋子は現在も三毛猫のまま。友美の胸に抱かれていた。それもなんだか、完全に疲れきっているご様子。それも無理はなかろう。朋子にしてみれば、自分の体がなぜかいきなり宙へと浮かび上がり、射羅窯の顔面に向かって飛んだのだから。恐らくその原因が、今もわかっていないまま、とにかく疲労の極限となったわけなのだから。
その原因(浮遊魔術を使った)である友美も、少しは罪の意識があるようだ。そのために朋子の体を自分が抱いて、疲れを癒してあげているのだろうか。
「朋子ちゃんならもう大丈夫やけ♡ わたしが疲労回復の術ばかけたっちゃけ♡」
友美がニコリと微笑みながら、孝治の問いに答えてくれた。
(……ったく、しゃっちが友美も涼子もやり過ぎっちゃねぇ♠ おれはもう慣れとうけ良かっちゃけど、朋子ちゃんまで巻き込まんでもよかろうもねぇ☠)
もちろん今のセリフも、口から出さないようにした。その朋子を飛ばしたもうひとり――友美の右横にいる涼子は、まるで孝治の考えがわかっているかのようだった。孝治に『ふふん♡』と笑みを向けてくれるついで、ペロリと舌なんかを出していた。そんな涼子の無邪気さを見れば、自分が思いっきり恥ずかしい目に遭わされたのに、孝治はなんだか許せる気になってしまうのだ。
(相変わらず、なんか憎めんやっちゃけねぇ♠♣♦)
この不思議な感情。自分自身でも理解がむずかしい孝治であった。 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights reserved. |