前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記閑話休題編T』

第四章 玄海の波は穏やか。

     (10)

「お願いします! 早ようして!」

 

「わかっちょうって!」

 

 翌朝、友美が高須の漕ぐボートを、一生懸命島へと急がせていた。

 

 ボートにはもちろん、高須の妻である桃子も同乗していた。だが島へと急いでいるボートは、この一隻だけではなかった。

 

 高須専用のボートのあとから、これまた地元衛兵隊で貸し切っている何隻もの船団が、精いっぱいの最高速力で群れを成していた。

 

 友美は今朝になってから早く、浮遊の術で島を飛び立ち、救援を呼びに浜へと向かった。さらにその役目は、友美ひとりだけではなかった。高須が漕いでいるボートには彩乃も便乗しているし、海上ではマーメイド形態になっている桂が、やはりボートに伴走して泳いでいた。

 

 つまり彼女たち全員、海と空に優れた特性(友美は魔術で飛べるし、彩乃はコウモリに変身。桂については、もはや説明は不要かと)を活かし、海を渡って本土へ助けを求めに行ったのだ。

 

 もちろん夕方から深夜にかけての豪雨は、とっくに止んだあと。本格的な嵐ほどではなかったが、まさに台風一過の晴朗日和であった。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system