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『剣遊記閑話休題編T』

第四章 玄海の波は穏やか。

     (6)

「ちょっとぉ! なんがありよっとぉ!」

 

 大きな音と悲鳴の連続を聞きつけたらしい。由香たちが大慌てに慌てた感じで、炊事場から大挙広間に駆けつけてきた。そこで彼女たちが見た光景は、全裸の孝治による太もも絞めで、射羅窯がダウン寸前となっている場面であった。

 

しかしやがて、首絞めによる酸欠が、とうとう限界にまで達したようだ。射羅窯が口から泡を噴き出しながら、ついに広間の真ん中でズッデデェェェェェェンと、背中を上にして倒れ込んだ。まるで巨木が根元から、斧で斬られたかのようにして。さらに両目も、完全に白へと反転させていた。

 

「凄かぁ! 孝治くんカッコよかぁ!」

 

「がいにやるぞなもしぃ!」

 

 ずっと孝治の奮闘を見ていた登志子と桂が、やんややんやの喝采👏を贈ってくれた。これはまさに、起死回生の大逆転劇であったから。

 

「今んうちばぁーい! ふん縛るとよぉーーっ!」

 

 さらに由香が、倒れた射羅窯を見て、大きな声を張り上げた。その声を号令として、給仕係一同総出となって、もはやピクリとも動かない射羅窯に襲いかかった。

 

「それぇーーっ!」

 

 全員、鍋やらフライパン、果ては箒{ほうき}や塵{ちり}取りまでも持ち出して。

 

 これを端から見ている友美がひと言。

 

「あららぁ……みんなよっぽど怒りが溜まっとったっちゃねぇ☠ これやったらもう、わたしも涼子も……それに孝治の出番もなかみたい♐」


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