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『剣遊記閑話休題編T』

第四章 玄海の波は穏やか。

     (3)

 そこへまた、ちょうどであった。

 

「きゃっ! どげんしたと、孝治!」

 

『あららぁ〜〜、こげなわかりやすか話の展開っちゅうのも、そうそうあるもんやなかっちゃよねぇ〜〜♡ あのヒゲ親父、猫になっとう朋子ちゃんば、でたん怖がりようっちゃよ☆』

 

 これはいったい、グッドタイミングなのか。それともバッドのほうか。友美と涼子は孝治の様子を見るため、広間に戻ろうとしていたのだ――と、あとで聞いた。それも再び、友美は透明の術で、自分の姿を消していた(涼子はもともと透明)。そこで思わず声を出し、おまけに術までが勝手に解けて、友美は広間に姿を現わした。しかしそんな突発的事態など、もはや射羅窯には関係なしの状況だった。

 

 射羅窯は猫(朋子)のせいで、ほとんどパニック状態でいたのだ。

 

 それはとにかく、透明に慣れている(?)涼子のほうは、すぐに悪知恵が浮かんだ感じ。

 

『友美ちゃん、これはチャンスばい!』

 

「えっ? チャンスって?」

 

『これっち、友美ちゃんがさっき言うたことやろうも☆』

 

 頭が半分真っ白となっているような顔をしている友美は、初め涼子がなにを言いたいのか。よくわからない様子でいた。だけど涼子が右耳にゴニョゴニョとささやけば、すぐにその悪知恵の真意を悟ったようだった。

 

「ふ、ふたりで共同して……やね! わかったっちゃ!」

 

 友美が両手を伸ばして前に突き出し、涼子は思念を集中させた。

 

 ついでに友美が叫んだ。

 

「そげんわけやけ……朋子ちゃん、ごめん!」

 

 友美は物体浮遊の呪文を唱え、涼子も両手を前へと突き出した。得意のポルターガイストを発動させるのだ。

 

とたんに三毛猫の小さな体が、ふわりと宙に浮かんだ。これは朋子にとって、非常に迷惑な出来事となった。

 

「にゃにゃあーーん!」

 

「きゃっ! 朋子、なにいなげなことになっとうぞなぁ! 友美ちゃん、なにしてんぞなもしぃ! これって例のあれぇ?」

 

 そばで見ていた桂は、すぐに友美が浮遊の術を使って、朋子を宙に浮かせているのだと理解した。もっとも幽霊も友美の右隣りにいて、こちらはポルターガイストを発動させているとは、たぶん永久にわからないだろうと思われるが。

 

「にゃにゃーーっ!(にゃ、にゃんね、これってぇーーっ!)」(猫のときも人間のときも、あんまり変わらんなぁ……作者)

 

 とにかく友美と涼子の術と霊能力の共同作戦により、宙に浮かんだ三毛猫――朋子の体であった。それがいきなり弾丸のようにスピードを上げ、呆然と怯えている射羅窯の顔面に、まともに正面衝突の事態となった。

 

「にゃあーーっ!(きゃあーーっ!)」

 

「うぎゃあああああああああっ!」

 

 これにてさらにパニックとなった猫が行なう習性と言えば、もうこれしかないだろう。朋子は無我夢中となって爪を立て、射羅窯の顔面をバリバリバリバリバリッと、思いっきりに引っ掻き回してやった。


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