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『剣遊記閑話休題編T』

第四章 玄海の波は穏やか。

     (16)

 孝治と友美は息をそろえて、松林から浜辺へと猛ダッシュした。もちろんこのふたりもバーベキューを楽しみにしていた本音は、今さら申すまでもない。それが本来の護衛意識に目覚め、林に侵入者よけの防犯仕掛けを準備していたばかりに、肝心の御馳走を食い逃す恐れが生じてきた。

 

 さらにもともと、狭い島での中である。孝治たちはすぐに、バーベキューの会場へと直行した。

 

「うわっちぃーーっ! おれにもバーベキューば食わせちゃりやぁーーっ!」

 

「きゃあああっ!」

 

 由香たちが慌てて飛び離れる中、孝治は渾身の底力を込めて、大ジャンプを決行! しかもそのまま、頭から突っ込んだ――肉を焼いている鉄板の真上に。

 

 ドバッシャアアアアアアンンッッと、バーベキューの台が盛大に引っくり返った。

 

「あっぢいいいいいいっっ!」

 

 おまけに孝治の長い黒髪に、よく焼けた牛肉やシーフードがへばり付く有様。さらに焼けたキャベツやピーマンカボチャタマネギなんかもへばり付いた惨状であるから、これはもうたまったものではない。

 

「うわっちちちちちっ!」

 

 頭から煙を噴き出しながら、孝治は遁走。そのまま海にドッボオオオオオオンンッと、派手な水柱を立ち上がらせた。

 

 これを見て、由香や彩乃たちが大爆笑!

 

「きゃははははっ! おっもしろかぁーーっ!」

 

「カッコ悪かばい、孝治くんったらぁ♡♡」

 

 あとから追い着いた友美と涼子は、もう呆れるやら情けないやら。笑うに笑えないとは、まさにこの出来事。

 

「あ〜あ、いくらお肉がなくなりそうっち言うたかて、自分がバーベキューにならんでもよかっちゃのにぃ☠」

 

『でも、孝治ば走らせたんは、あたしと友美ちゃんの共同正犯っちゃねぇ☀ で、ここであたし、ひとつの疑問があるっちゃけどぉ♀♂』

 

「ひとつの疑問? なんね、それ?」

 

 友美が涼子に顔を向けた。涼子はそこで、軽い咳払い(?)などをひとつ。

 

『孝治って、ほんなこつ女ん子ばかりん中におって、いっちょも違和感ば感じんとやけどぉ……男と女、本当にどっちなんやろっか? あたし最近、ますますわからんごつなりようとよ?』

 

「う〜ん……⚤」

 

 涼子の問いは、それこそ根本的な疑問であった。その思いは理解できるのだが、友美にも明解な答えを返せる自信はなし。結果、返答がこれ。

 

「ほんなこつむずかしか問題っちゃねぇ〜〜☁ それってきっと、天の神様かてわからんち、わたしは思うっちゃよ♀♂」

 

                                  剣遊記閑話休題編T 了


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