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『剣遊記閑話休題編T』

第四章 玄海の波は穏やか。

     (11)

 やがて、島の砂浜に船団(実際はそんなに多くはない。単なるボートや小舟や漁船の寄せ集めなので)が到着。完全武装の衛兵隊が、ドカドカと浜辺に上陸した。

 

 そこで部隊を仕切る衛兵隊長が、部下であるお抱え魔術師から魔道具の拡声器を受け取り、島から本土の浜まで聞こえるほどの大声でがなり立てた。

 

「あーーっ! あーーっ! 本日は晴天なり、本日は晴天なり☀ 犯人に告ぐ! 犯人の射羅窯君に告ぐ! この島はすでに完全に包囲をした! 今すぐに降伏をして出てきんしゃい! ただちに白旗を揚げて出てきんしゃい! 今ならば罪一等を減じる慈悲も、お上にないわけではなぁーーい! お上にも情けはある! ただちに人質のお嬢さん方を解放して出てきなしゃーーい! 君のお母さんは泣いとるばぁい!」

 

 このあまりにもお間抜けな、衛兵隊長のトンチンカンぶり。

 

「人質って……わたしたち、もう助かっとうとやけど……☹」

 

「あの隊長さん、わたしたちの話ば、いっちょも聞いちょらんかったみたいばいね♠」

 

 ボートの上で耳を押さえている友美と彩乃は、そろって呆れ顔となっていた。

 

「まあ、そげん言わんとき☞」

 

 そんなふたりに、ボートを島の桟橋にロープで繋いでいる高須が、やや苦笑混じりの面持ちで、そっとささやいた。

 

「朋子んたちが人質になっとうっち聞いただけであの隊長さん、いっぺんに頭に血ば昇ったみたいやけねぇ♪ やけんこれば好意的に言うたら、使命感の為せる技っちゅうもんばい♡♥」

 

「そうですねぇ☆」

 

 友美は納得の顔でうなずいた。反対に彩乃は、やや毒舌気味でいた。

 

「そもそも衛兵隊があのヒゲ親父ば脱走させたんやけ、そん責任ば、こっちは取ってもらいたかばってん……なんやけどねぇ☠」

 

 それはそうとして、高須の夫婦もすでに、事件解決の顛末は聞いていた。だから安心しきっている感じでボートから降りたばかりの桃子が、彼女たちの持ち店――海の家を右手で指差した。

 

「見てん! 入り口から誰か出ようばい♡」

 

「ええっ?」

 

「あらぁ?」

 

「まあ!」

 

 高須と友美と彩乃が桃子の声につられ、小屋の方向にそろって目を向けた。さらにボートの左舷側の海面にいる桂が、うれしそうに大きく両手を振っていた。

 

「ほじゃきん、あれはみんなのご挨拶ぞな♡ 事件が解決して、みんな英雄ってとこみたぁい♡」

 

 桂が微笑むとおり、海の家の正面から孝治を先頭に、昨夜は人質であった面々が、ぞろぞろと顔を出してきた。

 

 念のため全員きちんと、きょうも水着姿のまま。本当によけいながら、孝治だけは紺色のワンピースのスクール水着姿。他の者たちは色取りどりのビキニでいる状況は、初日から一点も変わっていなかった。

 

 これをすわ、脱走犯――射羅窯の最後の悪足掻きによる抵抗かと身構えた衛兵隊だが、出てきた者は全員女の子ばかり。これにて彼らは、たちまち戦意の喪失。意気消沈の拍子抜けとなったわけ。


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