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『剣遊記 超現代編U』

第二章 性転換娘のいる日常。

     (7)

「きょうは団体で走る訓練をする 全員横に五列、出席番号の順に右前列から並ぶこと♐

 

 体育の担任である北方{きたかた}先生の指導の下、おれたちは言われたとおりに整列した。このあと運動場のグラウンドを、延々と周回して走り続けるのだ。これでも一周走るのに二百メートルくらいを超えるので、かなりきつい授業内容だと言えた。

 

 で、問題である孝治は出席番号の順番によって(あいうえお順)、団体の中で真ん中の位置の配置になっていた。当然に前を走る連中らを除いて、ほぼ全員からの目が届く所に孝治はいるのだ。先頭を走る者(『あ行』や『か行』)たちは、さぞ無念の涙を流す思いであろう。おれは名前が『ま行』なので、孝治よりもうしろになっていた(孝治は『さ行』)。つまり女性化した孝治のハーフパンツに隠されたヒップが、とてもよく見える位置なのだ。これも神と『ま行』の苗字(和布刈{めかり})にしてくれた御先祖様に感謝。それから北方先生のピーーッというホイッスルの音をスタート合図にして、団体走行訓練は始まった。

 

「いち、にっ! いち、にっ!」

 

 全員が足をそろえるため、掛け声だけは一応元気がよかった。だが孝治のうしろに陣取る連中らの目は明らかに、そのプリンプリンとしたヒップを、必要以上に注視していた。おれもそうだが。

 

「す、すっげえ、横振り……♋」

 

 おれの左横に並ぶ裕志もまた、派手に揺れている孝治のヒップに見取れていた。これだとたぶん、孝治の両側に並んでいる連中など、これまた派手に横揺れしているおっぱいに、充分以上に気を取られていることだろう。残念ながら、うしろにいるおれには見えない光景なのだが。

 

 その興奮のなせる業{わざ}なのか、裕志がおれ相手につぶやいた。

 

「お、女の子って、こんなに肉が付いてて、よくふつうに運動やらできるよなぁ♋✍」

 

「そ、そうだな……☻」

 

 思わずうなずくおれだが、裕志の疑問には、大いに同感した。また同時に、本当に女の子に変わってまだ間もないと言うのに、早くもふつうに運動ができるくらいに順応しきっている孝治にも、別の意味でおれは驚きを感じているのだ。

 

「孝治のやつ、慣れるの早過ぎねぇ?」

 

とまあ、それはとにかく、これでは走行訓練にならないというもの。

 

「ういっち、にぃ……♋ ういっち、にぃ……♋」

 

 掛け声もだらだら気味。足元もふらふら。全員の連係は、物の見事に崩れ始めていた。

 

「こらぁーーっ! おまえらもっと真面目に走らんかぁーーっ!」

 

 北方先生がツバを飛ばして怒鳴るのも、まさしく仕方のない話だった。


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