『剣遊記 超現代編U』 第二章 性転換娘のいる日常。 (16) そんなおれたち三人(おれこと秀正、裕志、和志)の前の通学路を行く、これまた三人組みの男女あり。ヤローのほうは同じ港南の男子どもだが、女子のほうが問題だった。もちろん和志の目線は、すぐそちらのほう(女子のほう)へと移動した。
軽いネタバレをしてやるが、女子はもちろん孝治である。
「ほう、前を歩いてるネーちゃんは、香蘭の女子みてえだな♋ 港南{うち}の生徒{ヤロー}ふたりと三角アベックしてるみてえだが、ちくしょう! うらやましいじゃねえか♨」
「あっ、早くも出やがった☢☠」
歯ぎしりをしている和志とは対照的に、裕志は話の展開が、なんだかおもしろくなってきたような顔になっていた。おれも無論同じだ。すぐに裕志が、前方の三角アベックについて、和志に説明を始めた。
「ヤローふたりのほうは、おれたちB組の光一郎と和秀だな♐ まあ、あのふたりはどうでもいいか……って言うか、いっしょに登校なんかしやがって⚠ で、あの問題の彼女なんだけど、あれ実は、おれたちとおんなじ港南の生徒なんだよなぁ♀♂」
「『おんなじせいと』だとぉ?」
和志の三白眼が一瞬にして点となった瞬間を、おれは間違いなく目撃した。ついでだが光一郎と和秀のやつ、裕志の言うとおりちゃっかりと、孝治といっしょに登校してやがるとは。
まったく油断も隙もありゃしない。ふたりそろって、顔をもろにニヤニヤさせやがって。
それはそうとして、和志はまだ、女子生徒の正体に気づいていないご様子だった。
「そうか☀ ついに我が港南工業高校にも、女子の生徒が入学したっちゅうわけか☆ まあ、ヤローばっかしの掃き溜めにもやっと、一輪の花が咲いたっちゅうことだな☀♡ とにかくこりゃめでてー話じゃねえかよぉ☆☺」
「いや、あれが実は退院した鞘ヶ谷孝治なんだけどね♋☻」
このよけいなひと言が、裕志の命取りとなった。
「ぬわにぃーーっ! オレは真剣大真面目に言ってんだぞぉーーっ!」
とたんに和志が裕志に飛びかかり、首を絞めてブルンブルンと揺さぶりまくった。裕志は見た目にわかるほどの呼吸困難に陥りながらも、なんとか抗弁を続けていた。実に見上げた根性である。
「う、嘘じゃねえって! ほら、光一郎たちといっしょに、校門に今入ったろ☞ あとは教室で本人に確認してみろって♐」
「ゆおーーっし! おまえの言葉が真実か嘘か、このオレが絶対に確かめてやるからなぁ!」
和志は完全に本気の本気モードでいた。それを端で見ているおれの背中に、冷たい戦慄(のようなもの)が流れ落ちていた。 (C)2018 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |