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『剣遊記 超現代編U』

第二章 性転換娘のいる日常。

     (11)

 続いてクラスをふたつのチームに分けて、水泳によるリレーを行なうこととなった。この競争で水に飛び込むことができる者は、飛び込み台の上から。できない者は先にプールに入って、前の選手とタッチで交代するようになっていた。

 

 前にも申したが、孝治は泳ぎは遅いが(今回からそれに加えて、水の抵抗も、ある部分が異常に大きくなっただろうに)、飛び込みはなんとかできるほうだった。だから自分から飛び込み台の上に立つのだが、孝治が台に上がるとそのうしろでは、大勢のヤローどもが無駄に集まり始めていた。

 

 たぶん孝治は認識していないだろうが、うしろから見れば見事にふわふわしているヒップが、ドプリンプリンの迫力で、男どもの目の前に披露されているわけなのだ。

 

 孝治の右横の台に立つ、対戦相手である脇田永二郎{わいた えいじろう}の骨ばった筋肉質なケツと比べても、完全に対照的でふっくらとしているお尻なのだ。それからふたりの身長差も――これはもともとだが、頭のてっぺんが永二郎の肩まで全然届かない孝治の頼りなさぶりもまた、男心を大いに刺激してくれる。

 

「こらぁーーっ! そこ男子ぃーーっ! 集まり過ぎだぁーーっ!」

 

 北方先生がまたもやホイッスルを思いっきりにピーーッと吹きながら怒鳴るのも、これはこれで当然の成り行き。もはやワンパターンでもある。

 

 ちなみにリレーは、これも出席番号の順で奇数と偶数に分かれ、孝治とおれは別チーム――これもどうでもいいか。それよりも飛び込み台の上に立つ孝治の足元に、前の順番で泳いでいた熊手尚之{くまで なおゆき}が一コースを泳いで戻り、プールの壁にタッチした。

 

 ドボーーンと、孝治がプールに飛び込んだ。遅れて永二郎も飛び込んだ。前の選手が遅かったので。するとクラスの全員、当たり前のように、孝治ばかりを応援し始めた。もう奇数チームも偶数チームも関係なかった。

 

「行けぇ、孝治っ!」

 

「もっと肉体美を見せてくれぇーーっ!」

 

 もはや誰が言ったのかもわからないけど、応援しながら、下心も丸出し。結果は残念ながら、先に飛び込んだはずの孝治であったが、永二郎から簡単にクロールで抜かれてしまった。やはりスポーツ関係は初めにおれが解説したとおり、女性になっても実力そのものは変わらないようだ。ちなみに孝治は平泳ぎ。早い話が自由形での競争である。これでは勝負になるはずがない――て言うか、飛び込んで平泳ぎするやつが、ふつういるか?

 

 まあそれはそれとして、あとでおれは、永二郎に孝治といっしょに泳いでどんな気持ちだったかを尋ねてみた。永二郎は顔を少し赤くして、言葉に詰まりながらで答えてくれた。

 

「やっぱ、泳ぎにくかったぜ☠ 横で泳いでる孝治がチラチラ見えるんだけど、ときどきでっかい胸んところがもろに目に飛び込んでくるんだぜ☢ これじゃふだんの力が全然出ねえってもんだよなぁ

 

 その気持ち、よくわかる。確かにいつもの永二郎であれば、もっと速いスピードで二十五メートルのプールを、一気に泳ぎきったはずであるから。


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