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『剣遊記 番外編X』

第一章  狙われた(小心)魔術師。

     (8)

 やがて――であった。静かに眠り続けている状態であったろうバルキムの眼球が。その輝きをさらに強く増すようになってきた。それから直線的な口が大きくカパッと開き(完全なくちばし型で、中に牙や歯などは無し)、怪鳥を連想させるような甲高い吠え声を上げた。

 

 クァァァァオオオオオオン!

 

 しかし弱電流に苦しみながらも、裕志の意識は、意外といまだにしっかりしていた。その裕志は動き始めた新造キマイラ――バルキムに目を向け、こちらも甲高い悲鳴を上げた。

 

「わわわぁーーっ! バルキムが起きたっちゃあーーっ!」

 

 けっきょくこの場で盛り上がっている者は、尾田岩ただひとり。もともとふたりしかいないけど。

 

「ふぉっふぉっふぉーーっ☀☀ これでええんやぁーーっ✌ バルキムよぉ! 今から我れの命に従うんやでぇーーっ!☆」

 

 すでに全知全能森羅万象の神様気取り。調子に乗り切っている尾田岩が、バルキムに向かって声を張り上げた。

 

 そのバルキムは、現在せまい空間の中(バルキムの立場から見たらだけど、人の位置から見れば、途轍もなくだだっ広い格納庫)。自分の境遇に、なんだかとまどっている感じでいた。

 

 それはなぜかと言えば、辺りを盛んにキョロキョロと見回しながら、自分の両腕と両足を、ジタバタと上下左右に振り回しているからだ。

 

 そんな有様でいるものだから、尾田岩の声にも、まったく耳を貸す様子はなかった。

 

 そもそもどこに耳があるのやら?

 

「なんしとんねぇーーん! 創造主たる我れはここなんやでぇーーっ!♨」

 

 これにてかなりイラつき気味となっている、自称創造主であった。

 

 クァン?

 

 しかし、これに応える新造キマイラの返事も、どことなく情けなさを抱かせる感じ。もちろん現在囚われ中の身である裕志には、そのような事態の変化などは関係なかった。

 

「せ、先輩、ヘルプミーー!!」

 

 いざとなれば意外に頼りがいのある人物に救いを求め、ひたすら叫びを続けるばかり。自分自身訳がわからなくなっているので、なぜか英語が出てきたりもした。

 

 ところがこの悲鳴が、どうやらキマイラ――バルキムの耳に入ったらしかった。本当にどこに耳があるのか?

 

 クァン?

 

 バルキムがジタバタさせていた自分の両腕を、ピタリと停止させた。

 

 左右ともに人型の五本指ではなかった。青銅色の棍棒に、トゲを十本ほど生やしたような、恐るべき凶器のかたちをした腕であった。

 

「ふぉっふぉっふぉっ☺♡ ようやっと我れの命に従う気になったようやなぁ♡☀」

 

 バルキムのうろたえ気味な仕草を見て、どうやら勘違いをしたようだ。尾田岩が両手を広げて、自分の前に立つバルキムに向かい、大胆にも接近を試みていた。

 

 だがそのとき、自分が創造したキマイラの眼が創造主ではなく、むしろうしろの寝台に寝かされている青年魔術師のほうに向いているとは、尾田岩自身はまったく気づいていなかった。

 

 まあ、もともとから鈍感そうな性格でもあるようだし。

 

 それでもそのような些細な小事(?)など、知った話ではなし。大袈裟な振る舞いで、尾田岩がバルキム相手に奇声を上げまくった。

 

「そうや、バルキムよぉ! 我れの命に従って、ただちに帝都への攻撃に出発するんやぁーーっ!」


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