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『剣遊記 番外編X』

第一章  狙われた(小心)魔術師。

     (5)

 だけど、次の尾田岩の発言で、裕志は一応ほっとした。

 

「安心せえや☆ 我れとてあんさんを怪物なんぞにはせんわい☻」

 

「そ、それってぇ……ほんなこつですけ?」

 

 このとき尾田岩の裕志を見る目付きは、相変わらずの上から目線でいた。

 

「ああ、さっきも言うたやろ☟ あんさんの人格を我れのキマイラに移植するだけやさかい☻ 誰もあんさんの命まで取ろうとは言わんわい☠」

 

「そ、そげんですけぇ……良かったぁ……☺」

 

 実に単純。尾田岩の偽善的なその言葉だけで、裕志は心の底から安堵の息を吐いた。しかし、そうは問屋が卸さない現実が、世の非情の常なのだ。

 

「ついでにさっきから言うとんのやが、あんさんの人格を我れのキマイラにもらい受けるんやで⛳ そやさかいちょっとの辛抱で、これを頭にかぶってもらおうかいな☛」

 

「わひっ☠!」

 

 中年魔術師がニヘラ笑い顔で言って、机の上に置いてあった洗面器型の物を、両手で持ち上げた。さらにそれを、寝台の上で寝かせている裕志の頭に、無理矢理的変な格好でカパッとかぶせてくれた。

 

「や、やめちゃってぇーーっ!」

 

 それは一見、どこの家庭にもふつうにあるような、まさしく洗面器状の被り物だった(洗面器はふつうにあるが、頭にかぶるのは、子供のお遊びくらいか)。ただし、洗面器の底からは何本もの電線のようなコードが伸びており、その先がまた、部屋の隅の机に置かれている謎の研究用具(やはりフラスコや試験管のような物。アルコールランプまである)につながっていた。

 

 つまりが得体の知れないヘルメットと言えるシロモノかも。

 

 そのような気持ちの悪い物体をカプリとかぶせられ、裕志は何度も悲鳴を繰り返した。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと、やめちゃってくださぁーーい! ぼくは煮ても焼いても不味かですからぁ!」

 

 無論尾田岩は聞く耳なし。いったん裕志の寝台から離れ、隅の壁(裕志から見て右側)にあるドアノブのような取っ手を握り、大袈裟な素振りで言ってくれた。

 

「よう見らんかい★ 我れが天才である証拠をやなぁ!」

 

 尾田岩がドアノブ(らしい物)をキュッとひねれば、壁だと思っていた箇所が自動シャッターのようにガラガラと上に開き、向こう側だった所をあらわにした。

 

 その向こう側にある物を、家政婦――ではない、裕志は見た。

 

「わわぁーーっ!」

 

 いつ、いかなる場合でも、平凡な反応しか返せないところが、この青年魔術師の大きな欠点であろう。それはさて置き、裕志のつまらない驚き方など、一向にお構いなし。むしろ尾田岩の自己陶酔と自己顕示。まさしくここに極まれり――だった。

 

「見るがええ☀ これこそ我れの魔術の最高傑作であり集大成☆ 新造キマイラ、その名も『バルキム』なんやぁーーっ☆☆」


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