『剣遊記 番外編X』 第一章 狙われた(小心)魔術師。 (18) そんなふたりが不毛な会話をしている最中だった。静香が大層な剣幕で、空の上から舞い降りてきた。
「ふたりとも、なにこんななっからとこで、みっとがない話してんのさぁ☢」
それから静香は着地するなり、改めて顔を上げ、右手で上を指差した。
「見かけよりずいぶん世話ねえようだから、ちっとんべ恐る恐るだども降りてきただがね、本当ならうんまか無かんべえほど、なからな事態なんだがねぇ☠☠」
「そうあるよ!」
さらに到津までが悪乗りするかのごとく、元の崖下まで戻ってきた。こいつは荒生田よりも遥か遠くへ逃げていたのだが、それは完全棚の上にしているようだ。
もっとも逃げたことに関しては、全員『五十歩百歩』と表現しても良かろうと思われるのだが。
「確かにシツカさん言うとり、見かけおぞいけと、とてもこが〜におとなしかーしてるよに見えるある☝ なんたかワタシ、反対に親しみみてるよな気、してきたのこと☺」
「おまえらみんな、さっきからいったい、なん言いよんねぇ♨」
だんだんと話が見えなくなる思いになったようで、それこそなんだか、荒生田はひとり『蚊帳の外』の気分になってきた。そのためややイラ立ち気味で、全員に荒めの声を張り上げた。これに裕志が、とても不思議なモノを見るような顔になって、逆に先輩に尋ね直した。
「あのぉ……こげん言うたら失礼かもしれんとですけどぉ……先輩はぼくが、いったいなんに乗ってたか……ようわかっちょらんとですけぇ?」
「おう、そげん言うたらそうやったっちゃねぇ♐」
そこまで言われてようやく荒生田も、元の本題へと立ち返った。とにかく気移りの激しい性格ゆえ、最初の疑問も途中のドタバタしだいで、あっさりと記憶からリセットできる男なのだ。
「その、なんだぁ……裕志が乗ってきたっちゅうデカか山みてえなモン、今もこげんしてオレたちん前にあるとやけど、改めて訊くとやがこりゃいったいなんね? 確か到津が『ちょうじゅう』とか言うたっちゃねぇ☝」
「は、はい……そん超獣なんですけどぉ……☁」
裕志も改めて、自分の背後に控える山のようなモノに目を向けた。
「やけん、ぼくかてこげなん初めて見るっちゃですけどぉ、新造のキマイラっちゅうモンですっちゃよ☞ 名前は『バルキム』っちゅうらしいんですけど、で、こいつがぼくば魔術師から助けてくれて、それからここまで連れてきてくれたんですっちゃよ☺」
「『ばるきむ』やとぉ?」
後輩の説明を、実は零信全疑の本心で耳に入れつつ、荒生田は本物の山のように巨大過ぎる影を、これまた改めて見上げてみた。
あいにく満月が再び厚い雲に覆われ、見た目にはただの黒い物体でしかなかった。ところがその雲が、すぐまた都合良く晴れて、地上を明るく月の光が照らしてくれた。
するとクァァァァオオオオオン!――と、裕志が『バルキム』と紹介したモノが、月に向かって高い吠え声を上げ始めた。
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