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『剣遊記 番外編X』

第一章  狙われた(小心)魔術師。

     (17)

「超獣っちゃねぇ☝☟」

 

 到津の大声は、荒生田の耳まで伝わった。しかも今の荒生田は『灯台もと暗し』の例えどおり――問題である超獣の真下にいた。そのため間近過ぎて、超獣とやらの全貌が、まるでつかめないでもいるのだ。ただ後輩の裕志がだんだんと、自分の立ち位置まで近づいてくる様子だけが、目の前で起きている現実の光景として感じられるだけでいた。

 

 このとき後輩――降下してくる裕志が乗っている少し前のほうで、なにやら爛々と光るモノが、ふたつ見えてはいた。だがそこは、人一倍勘が鈍にぶい自分に気づいていない荒生田の言い方。

 

「馬鹿言いよんやなかっちゃよ☠ それよか裕志は、ちゃっちゃと降りてこんね♨」

 

 今は光るふたつの物体について、まったく考えようとはしなかった(あとで思い出せば、それは眼球が光っていたのだろう)。

 

「は、はい!」

 

 そのようににぶい先輩から、急かされる格好。裕志は地上近くに達してからようやく、自分が乗っている場所から、ピョコンと地面に飛び降りた。

 

 遥か見上げるような所からここまで降りるのに、けっこう時間がかかったわけである。

 

「痛っ!」

 

 ところがここで、こちらもこちらで、運動神経がにぶいという無様を見せつけた格好。裕志は地表にて、ドスンと尻餅の有様となった。そんな後輩ばかりを見てか。背景にある巨大な影など、早くも意に介さない感じ。荒生田が後輩魔術師に、きつい口調で質問をした。

 

「相変わらずドン臭いやっちゃのう☠ それよか裕志、おまえ今まで、どこ行っとったとや?」

 

「は、はい!」

 

 お尻がすごく痛むものの、先輩からサングラスの奥で光る三白眼でにらまれたら小心の裕志など、まさにヘビの前のカエルも同然。背筋を、無理にでもシャッキと伸ばして直立不動。荒生田からの問いに、正直に答える健気ぶりを見せていた。

 

「ぼ、ぼくはぁ……そのぉ……変な山ん中の城ん中に捕まってしもうてぇ……そこでやっぱし変な魔術師からぼくの人格ば……キマイラに移植されてしまったとですよぉ……♾」

 

「……なんねぇ、それ? 言いようことが、いっちょもわからんばい?」

 

 荒生田の『訳わからん?』も、これはこれでもっともな話。しかし、それをなんとかして伝えようとしている裕志自身、本当は半信半疑の思いでいるのだ。

 

 事件の当事者兼被害者である身の上だが、その悪の魔術師――尾田岩の話が実のところ飛躍し過ぎていて、裕志もいまだに誘拐されたという実感が、なんとなくだがピンとこないでいた。

 

 現在その問題のモノが、背後に実在していても――である。


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