『剣遊記 番外編X』 第一章 狙われた(小心)魔術師。 (15) 「なんだべ、あれ?」
空中に舞い上がっている静香が、天と地で繰り広げられている合い言葉の応酬に、早くも瞳が点の面持ちとなっていた。
そんな翼の戦士に構わず、先輩と後輩の掛け合いは続いた。
「ゆおーーっし! 次ぃっ! イイクニツクロウ!」
「カマクラバクフっ!」
「ゆおーーっし! おまえは本モンの裕志っちゃね✌」
「あららっ♾」
静香が空中でズッこけた。ついでに次のようにつぶやいたりもした。
「最近じゃあ、イイハコツクロウになってるらしいんさぁ?」
しかしその最新学説をこの場で言ってみても、それは無駄な徒労で終わりそうな感じ。もっともこの静香の有様は、現在月が雲に隠れて周辺がさらに深い暗闇となり、地上の荒生田からはなにも見えてはいなかった。だからこれは、視界の外。
「暗うてなんに乗っとんのかようわからんちゃけど、とにかくそっから早よ降りてこんね! これじゃ話にもならんけぇ♨」
合い言葉が一応通じたので、荒生田はとりあえず安心の気分になった。それから早くも、偉そうな態度が復活。頭上にいるらしい裕志に向かって呼び掛けた。無論裕志は、すなおな姿勢でもって、先輩に応じ返してきた。
「は、はぁ〜い……☹」
このとき荒生田は初め、後輩魔術師が浮遊魔術を使って、高い所から降下してくるものと考えた。
「おっ?」
ところが予想に反して山(だと思っている物)のほうが、まるで腰をかがめるかのようにして、裕志を荒生田の元まで近寄せたのだ。
「お、おまえが乗っとんのは……いったいなんやっちゅうとや?」
当然の疑問を、先輩が口に出したときだった。ちょうど夜空の雲が割れ、煌々とした満月の光が、周辺を明るく照らし出した。 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |