前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記 番外編X』

第一章  狙われた(小心)魔術師。

     (12)

 そのような三人の事情は、さて置いて――であった。

 

 地鳴りに続いてズズーーン ズズーーンと、先ほどよりもさらにはっきりと響いてきた大地の震動で、静香は焚き火の前にて、すくっと立ち上がった。

 

「やっぱり本モンの地鳴りだがね☟ それもまっと、こっちさ近づいてくるのぉ♾」

 

 こうなると到津も、ようやくなにかを感じたご様子。同じく立ち上がったついでに、周辺をキョロキョロと、再び見回す動作を繰り返した。

 

「ほ、ほんとあるね! シツカさん言うたこと、ほんとだたわ♾」

 

「そやねぇ……こりゃほんなこつヤバかばい☢」

 

 荒生田も(この場にいる三人の中では一番勘がにぶいだろうけど)事ここまで到れば、浮足立たずにはいられなかった。

 

「……とうやらやぱり、シツカさん言たとおり、北の方角みたいあるね☜」

 

 野伏――到津が、バードマンの女戦士――静香が言うところの北の方角を、右手の人差し指で指し示した。

 

「うん……☚」

 

 当の静香も、北の方角に再び瞳を向けた。それから一瞬だが、彼女は自分の瞳を疑うような素振りを、荒生田と到津に見せつけた。口が『あわわ☠』といった感じの。

 

「……な、なに……あれ、なんかい?」

 

 自分の正気が確かなうちに――と考えたのだろうか。すぐに旅の同僚である、変な訛り(大陸風混じりの島根弁)の野伏に訊いてみた。

 

「ね、ねえ……到津さぁはわかるなん? あれがなんかってきゃ?」

 

 だが到津のほうも、この返答には大困りの顔となっていた。

 

「な、なに言われても……ワタシもあなおぞいモン、見たこと聞いたことないあるね♾」

 

「ゆおーーっしっ! 情けなかっちゃねぇ☠」

 

 この状況で、いつもひと言多い口を出す所が、例によって荒生田の悪い癖。

 

「この世に千年以上も生きちょりながら、あげなん見てビビりよんねぇ☠ あげなんただ山が動いて、こっちんほうに来ようだけやなかぁ……?」

 

 などと、偉そうなセリフのあとだった。サングラスの戦士は自分自身で吐いたセリフに、自分自身で驚いて飛び上がった。二メートルくらい。

 

「な、なんねぇーーっ! 山が動きよっとぉーーっ!」

 

 まさに器用極まる行動っぷり。それを静香と到津に披露してくれた。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system