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『剣遊記 番外編X』

第一章  狙われた(小心)魔術師。

     (11)

「げほっ! ごほっ! あいやあ、ちょと待てごせね♾」

 

 埃による咳を繰り返しながら、到津が静香の前に身を乗り出した。今から飛び立とうとしている彼女を、どうやら止めさせる気のようだ。

 

「空の上言うても、夜の闇の中、なにいるかおぞいほどわからないのこと♾ これワタシとて、なかなかそが〜にてきないことあるね☁☃」

 

「う〜ん、野伏の到津さぁが言うたら、なんかなっから説得力あるんだがねぇ✏♠」

 

 ここで静香がなぜ、到津の忠告に耳を貸したのか。その理由はバードマンの彼女が野伏と同じ、山国育ち。お互い大自然の脅威を、身に沁みて知り尽くしているからでろう――いやいや、もっと奥深い理由があるのだが、ここでの追及をやめておこう。

 

 とりあえず到津の助言に従って、飛行をやめにした静香は、焚き火の前でチョコンと腰を下ろして座り直した。体操座りの格好で。

 

「そもそも今回の旅って、荒生田さぁのお誘いでごいっしょさせてもらってんのぉ、ほんとに荒生田さぁって、進一さぁのお友達なんだべぇ?」

 

「な、なん言いよんねぇ!」

 

 座り込んだ静香の何気ないひと言で、なぜか荒生田が過剰な反応を引き起こし、この場でザッと立ち上がった。

 

「オ、オレは魚町とは戦士学校の同期生で、昔っから大の親友やったんばい! やけん今回は魚町の許嫁である君んこつばよう知りとうて、こげんして珍しか顔ぶれで冒険に励みよんちゃねぇ☀」

 

「だーがーね、そこんとこの真意さぁ、ちっとんべぇもわかんねえのぉ?」

 

 荒生田の訳のわからない論理を前に、静香はどこまでも横目気味の姿勢でいた。

 

 ここでいったん状況説明。丹波の山中でこれから野宿を行なおうとしている面々。荒生田に到津に、バードマンである静香たち。おまけのもうひとりは今は捨て置いて(悲惨)、確かに変わった顔ぶれではあった。この理由は、荒生田と到津ともうひとりが、新しい冒険の旅に出ようとしたときだった。出発の際、偶然未来亭の店内にひとりいる静香が目に付いて、まあいっしょに旅ができりゃあメッケモンとばかりに同行を誘ってみたわけ。ところがなんと、彼女はこのとき、許嫁の魚町からいつものい置いてけぼりを喰らって、ひとりで暇を持て余していた最中であったのだ。

 

「進一さぁ、またあたしさ置いて、ひとりで行ってしまったんさぁ☂」

 

 そう。静香が愛してやまない魚町進一{うおまち しんいち}が、またもや彼女から逃げ出して、遠くにひとりで行っちゃった――と言うわけ。そこを荒生田が下心を露骨に、言葉巧みで静香を上手に誘って連れてきたという、これもいつものお決まりの定番コース。

 

「なんやったらオレたちといっしょに旅に出らんね? オレやったら魚町んことばよう知っちょうけ、旅ん間にあいつんことば、よう教えちゃるけね☻」

 

 実際の話。サングラス😎の戦士と巨漢戦士の魚町は、確かに親友であった(今の所、絡みの話は無いけど)。だからそれをエサにして誘われたら、許嫁――進一ひと筋の静香に、断る理由などなかったのだ。

 

「行くだがねぇ! だからまぁず進一さぁのこと、いろいろ教えてんさぁ!」

 

 その後は『釣った魚にエサはやらない⛔』の例えのごとし。荒生田は適当に言葉をごまかしながら、兵庫県は丹波の山奥まで、静香を旅に付き合わせているわけ。

 

 ついでに到津は、これまたいつものお付き合い。おらんよかおったほうが、なにかと便利やけねぇ――理由は荒生田の都合しだい。ただこれだけ。


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