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『剣遊記 番外編X』

第一章  狙われた(小心)魔術師。

     (10)

「なんだんべぇ? 今のなから地鳴りみてえな音だがねぇ♾」

 

 初めにその音――というか変動に気づいた者は、背中から純白の鳥の翼を伸ばしている女戦士――石峰静香{いしみね しずか}、ただひとりであった。

 

 そんな彼女の両脇にいる殿方ふたり――荒生田和志{あろうだ かずし}と到津福麿{いとおづ ふくまろ}は雁首をそろえて、周辺をキョロキョロするばかりでいた。

 

「ん? なんか聞こえたっちゃね?」

 

「あいやあ! ワタシ聞こえなかっただわ☝」

 

 けっきょくふたりは、なにもわからないご様子っぷり。

 

 一応荒生田は、静香と同業の戦士である。さらに到津も、大自然を職場とする野伏の身分でありながら、見事ふたりして、大きな鈍感ぶりを発揮してくれた。

 

 ここは兵庫県は丹波地方の山奥。諸国を旅している戦士たちの一行が、夜も遅しと野宿を決め込み、手頃な洞窟を見つけて、その前で焚き火を囲んでいる所であった。

 

 人数はヤローふたりに紅一点で静香を加えた三人組。だが実は、もうひとりが現在行方不明中となっていた。

 

 その静香が言った。

 

「ふたりとも、まあずわかんねえかい? 今の地鳴りこっからちっとんべ、北のほうから響いてきたに違いねえんだがね☞ もすかしたら裕志くんと、なんかうんまか無い関係があるんじゃないんかい?」

 

「なんもなかっちゃよ☢」

 

 心配げに北の方角の夜空を見上げている翼の戦士――そう、彼女はバードマン{有翼人}なのだ――とは、まるで対照的。人間の戦士である荒生田のほうは、実に薄情そのものの態度でいた。

 

「裕志んやつやったら、あしたまた山狩りばして捜しゃあよかっちゃよ☻ それよか今夜は、ここで早よ寝るに限るっちゃ✍ あいつやったら崖から落ちたっち、いっちょも平気で死にゃあせんとやけ✌」

 

 荒生田は根拠クソ喰らえで言い切った。夜も充分に遅いという時刻なのに、それでも自慢の黒いサングラス😎を絶対に外さない、真にもって奇矯極まる男である。

 

「そらぁ、うんまか無かんべぇ✄」

 

 もちろんそのような根拠薄弱な強弁で、納得をする静香ではない。

 

「あたしだったら、今からはぁ、空さ飛んで裕志くんさ捜せるけい、やっぱり行ってみたいんのぉ……✈」

 

 そう言って、背中の翼をバサバサと羽ばたかせながら、静香は強気で主張した。

 

彼女の軽装革鎧はバードマン仕様の特注品で、背中から翼を伸ばせるかたちの特別製になっていた。しかし地面が剥き出しとなっているような場所では、羽ばたかせないほうが良いようだ。理由は一陣の風がビューンと起これば、周囲がすぐに埃まみれとなるからだ。


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