『剣遊記15』 第四章 謎のロビンソン漂着。 (9) ところでメンバーの中での最長年者の貫禄か(面と向かって言ったら殺される☠)。さすがに美奈子は、男が目覚めても冷静のままでいた。まあ、当初からの予測どおりであるが。
「ここはラブラドール・レトリーバー号……まあ長いんで『らぶちゃん』で構へんのどすが、とにかく帆船の中どすえ☺ ロビンソンはん♥」
「らぶちゃん? それに『ろびんそん』って、なんじゃ?」
当然ながら、男が尋ね返した。どうやら美奈子にまで、千夏の例え言葉に影響されたようだ(ついでに伏せ字をする気もなし)。それは置いて、なんだか疑い丸出しである男――ロビンソン(?)の眼差し。
(これってなんか、事情がありそうやねぇ☢)
孝治は声を出さずにつぶやいた。
とにかくその、まるで警戒心を隠していない、けわしい顔付き。いや、それ以前に、美奈子のセリフが突拍子過ぎなのもあったりして。
それでも当の美奈子は動じなかった。
「そうでおます☀ まあ、ほんまもんの大船なんどすが、言葉どおりの大船に乗ったつもりになりはって、ゆっくり養生しはったらよろしゅうおまっせ☻」
「うわぁっ!」
美奈子は優しい言葉をけたつもりであろうけど、とたんにヒゲのロビンソンが驚き声を上げた。
「まあ、こげんなるっち思いよったんやけどねぇ☠」
孝治はヒゲ男驚愕の理由が、すぐにわかった。いや、初めっからこの展開を、予想してもいた。なにしろ美奈子の現在のスタイルは何度も何度も何度も記しているとおり、初対面である野郎を前にしてもまったく変わらず、黒の超マイクロビキニ姿のままなのだから。見ようによっては超極細な黒紐を見落として、黒髪の長い女性(美奈子)が、いきなりマッパで現われた――と勘違いしたのかもしれない。
「な、な、な、な、なにいなげな裸ん格好しちょるんじゃあ! 仮にも男の面前であろうがぁ!」
ロビンソンの広島弁も、かなりに滅茶苦茶となっていた。それでも美奈子は、平然の面構えを崩さなかった。
「そない慌てへんかて、うちはきちんと水着を着てまんのやで⛑ 決して裸やおましまへん⛔」
「正しいことは正しいっちゃけど、説得力はゼロばいねぇ☠」
孝治は小さな声で、友美と涼子相手にささやいた。この間にも続いているヒゲのロビンソンと美奈子の会話は、まるで噛み合ってはいなかった。
「と、と、と、とにかく服を着てくれんかのぉ!」
「そやさかい、服ならこのとおり、着てまっせ☻」
このような場合は大抵、男性のほうが先に折れるものである。この場でも、その例には洩れなかった。
「ま、まあ……ええわい☠」
せめてもの礼儀か、それとも抵抗か。ロビンソンは美奈子から目線をそらし、医療室の窓のほうに顔を向けた。
窓からは広い太平洋が眺められた。 (C)2018 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |