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『剣遊記15』

第四章 謎のロビンソン漂着。

     (7)

 ベッドに寝かされている男を、美奈子がその右側に置いてある丸椅子に腰掛け、上から覗き込むようにして見つめていた。

 

 言うのももはやクド過ぎるかもしれないが、美奈子は今も相変わらず、黒の超マイクロビキニ姿。とうとう本物の野郎――もとい男性が瞳の前に現われても、着替えて元の黒衣に戻る気は、まったくさらさら無いようだ。

 

 ベッドが置かれているラブラドール・レトリーバー号の医療室(医者はいないが、薬や医療器具はそろっている)には、孝治と友美を始め、今回の旅の面々全員が顔を並べていた(ただし、秋恵のみ不在)。別に美奈子が男にチョッカイをかけないかどうかを心配しているわけでもないが、やはり漂着者の素性が気になる――と言う理由でもって。

 

 それでも実際に、美奈子の瞳が心なしか、トロンとしている雰囲気でもあるし。

 

 とにかく全員が無言のままでは話が進まないので、友美が一番でささやいた。

 

「さっきはほんなこつ、ビックリしたっちゃねぇ♋ いきなりピンク色の馬車が、それも馬無しでひとりでこっちに来たっち思うたら、その馬車んかたちがグニャグニャ変わって秋恵ちゃんになるっちゃけ 秋恵ちゃんっちもう、なんでも有りっちゃね

 

「おれもそう思うっちゃよ✍」

 

 孝治も友美に、大きく同感した。

 

「馬車から元に戻った秋恵ちゃんが真っ裸なんは、もう突っ込む気にもならんちゃけど、それよか秋恵ちゃん、自分の体ん中に、こん見ず知らずん人ば乗せたとやけねぇ これはこれで、なおさらビックリっちゅうもんばい で、そん秋恵ちゃんは、今どこおるとね?

 

 話のついで、孝治は室内を見回しながら、友美に尋ね返してみた。友美はすぐに答えてくれた。

 

「秋恵ちゃんやったら、水着ば着直すっちゅうて、自分の部屋に戻ったっちゃよ☛ また裸んまんまで……っち思うたら、また体ば丸めてピンクのボールになって、コロコロ転がって行ったっちゃけどね☻」

 

 孝治はふむふむとうなずいた。

 

「なんとのう想像できるっちゃよ☻☻ 真っ当な裸ば、やっぱ見られるんは恥ずかしいとやろうねぇ☢」

 

「そこはわたしも……なんとのうやけどわかるっちゃね

 

 そんなこんなで、孝治と友美でつまらない会話をしている最中だった。

 

「今……じんわり(京都弁で『じわじわ』)起きはったわ、こん人☞」

 

 美奈子が言うとおり、男が小さな声を出したのだ。

 

「う……うぅ〜〜ん☁」


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