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『剣遊記15』

第四章 謎のロビンソン漂着。

     (6)

 秋恵はいったん、男をその場で仰向けに寝かせ直し(この作業にも苦労した)、改めて策を考えた。一人前に両腕を組んで。

 

「っちゅうたかて、今から美奈子先生たちば呼びに帰ったら、そん間にこん人まぐる(長崎弁で『気絶』)っとう間に波に流されてしもうて、フカに呑まれるかもしれんばい☠ どがんすればよかばいねぇ?」

 

 でもってしばし考えたあげく、出てきた結論がこれ。

 

「またやるしかなか★」

 

 なにかを決断した秋恵は、またもやビキニの水着を脱ぎ始めた。もちろん二枚だけなので、先ほどとまったく同じで、すぐに裸。それから脱いだビキニを、右手でギュッと握り締めた。

 

 男の気絶状態は継続中なので、その目を気にする必要もなかった。秋恵は横たわる男の右側に、全裸となった身を寄せた。そこで自分もうつ伏せになると、再び自分の体をみるみる変形させた。

 

 それも今度はボール型ではなく、平べったい板状の敷物――絨毯{じゅうたん}のような物だった。

 

 もちろん色は桃色。その桃色をした敷物が、スルスルと男と砂浜の隙間に、まるで生きた紙のようにして入り込む。当たり前だが、秋恵は生きている。

 

 とにかくこれではなんだか、敷き布団にでもなったような感じ。だけど秋恵の変形は、まだまだこれだけでは収まらなかった。男の下に敷かれた桃色絨毯が、続いてムクムクとふくれ上がり、やがてその体全体を、スッポリと包み込んでしまった。

 

 それからさらにさらに、男を包んだ絨毯が変形。これまた大きくムクムクと立ち上がったようになり、なんと馬車のような車輪付きの乗り物と化したのだ。

 

 秋恵はついにただの変形だけでなく、機械に似た物体に化けたわけである。ついでに説明を加えれば、秋恵のビキニはきちんと、変形した車体の内部に収容されていた。せっかくのお気に入りである水着を見ず知らずの場所に放置して行く気など、毛頭から持ち合わせていないようなので。

 

 それから秋恵変形である桃色車両(どのようなモノに化けても、色だけは絶対に変わらないようだ)は、まさしく外見どおりに車輪を回し、ゆっくりと前進を開始した。

 

 車体と車輪の接合部分は、いったいどのようになっているのだろうか。とにかくまったくふつうに、秋恵は進むだけだった。

 

 さらにさらにさらに車体はちゃんと屋根も設置されている、完全無欠の馬車タイプの乗り物。これが馬無しで勝手に動くところを知らない人が見れば、誰もが『あっと驚くタ〇ゴ〇―!!』となるだろう。現に秋恵がこの車姿で突然帰ってきたとき、孝治はなんと四メートルもの大ジャンプをしたのだから(大嘘)。

 

 最後に余談、秋恵はとうとう恐竜たちとは、一回も遭遇をしなかった。あとで秋恵から「きょうりゅう? なんねそれ?」と言われたとき、孝治は心底からノータッチの偶然を驚いたものだった。

 

「おんなじホムンクルスっちゅうんに、なんか磁石のおんなじ極(SとS、NとN)みたいに、反発でもしおうとやろっかねぇ?」


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