『剣遊記15』 第四章 謎のロビンソン漂着。 (4) 思いっきり存分に泳ぎ回って、一応の満足をしたようだ。秋恵は元の砂浜に上がった――とはいっても、元のボール型に戻っただけ。秋恵は変形したまま、ポーンと海中から飛び上がった。
いったいこの娘はなにを考えているのか。作者にもわからない。とにかくその桃色ボールが、砂の上にペタンと着地をするなりだった。なんとボールが真ん中からパカッと、ふたつに分割。真ん丸の球体が半分に割れてふたつのお椀型となり、それがさらにふたつから四つへ。さらにさらに四つから八つへと、次々に自己分割を繰り返した。
その分割が極限にまで達したらしいところで(つまり無数の粒々状態)、すべてのカケラが小さな玉型に変形。数え切れないほどの(数える者など誰もいないが)パチンコ玉大となり、ひとつひとつがコロコロと、本当にいったいなにを考えているのか、ピョンピョンとバッタのように跳ね回る。
やがて、その自由奔放を満喫しきったのだろうか。無数のパチンコ玉群がやはりピョンピョンと、砂浜からやや離れた陸地の、草が少し生えている原っぱまで移動した。
まさにひとつひとつが、意思のある人間の行動でもって。
そこでまた、パチンコ玉群が集結をして合体。ひとつの大型桃色ボールに戻っていった。
その桃色ボールが、またもやかたちを変えた。しかもそれが、先ほどの両手を前に組んで体を丸めていた体勢の秋恵に戻るまで、ものの十秒もかからなかった。
元の人間の姿に戻った秋恵が、立ち上がって大きな伸びをした。言うまでもないが、今の彼女は全裸である。
「あーーっ、スッキリした☀☺ たまには思う存分に体んかたちば変えて飛び回らんと、なんかストレスが溜まっていかんけねぇ♪」
これにてやっと、彼女――秋恵の本心がわかったりして。つまり秋恵はときどき、変幻自在な自分の体の特性を、思いっきりに活用しまくりたいわけ。
今さら呪われた体質の因果など気にもしていないので、せっかくの変形能力を、とにかく目いっぱいに発散させたかったようなのだ。
「美奈子先生との旅んときもたびたび変身したとやけど、やっぱ自分で思う存分に変身しまくりっちゅうのが、あたしにはごーぎいっちゃんええ、ストレスの解消法ばいねぇ☺ それはそうとしてそろそろ戻らんと、みんなからいじくそ怒られるかもしれんばい☻」
ドキドキワクワクの高揚感は、まだまだ秋恵の胸の中で高鳴りを続けていた。そのような気持ちのままで、秋恵はすぐに、周辺をキョロキョロと見回した。ここは無人島であるから(まだ、そう思っている☻)裸を見られる心配はないが、それでも早いとこ水着を着直して、元の浜辺まで帰らないといけない。
桃色ビキニの上下は、初めに脱いだ所に放置されたままだった。それらを拾って急いで身に付けるそのついで、秋恵はもう一度、砂浜のほうに振り返ってみた。なんだか名残惜しい気持ちがしたので。
「あら?」
秋恵は砂浜の波打ち際に、先ほどまでは無かったモノがあることに気がついた。 (C)2018 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |