『剣遊記14』 第四章 謎の怪竜出現……いやいやもう大決戦! (9) 「こいつ血迷いやがって、本来の習性も忘れたっちゃねぇ! とにかく、り、陸上でもそーとーしゃーーしぃーーっちゃあ!」
しかしグルグル巻きにされたとはいえ、今度は孝治に余力があった。なにしろ本物のタコの八本とは違って、ティラノダコラには二本しか触手がないからだ。これが何本も周囲から絡んでくればそれこそ一大事なのだが、ティラノダコラのもう片方の触手は、なんと飛び蹴りから一瞬にして立ち直っている荒生田との対戦でかかりっきりになっていた。
「くのやろっ! こん馬鹿チンがぁ! 下等動物んくせに、オレたち人間様と対等に戦うんやなかぁっちゅうの!」
それなりに必死の形相で戦っている、荒生田の雄叫びであった。この光景が瞳に入った孝治は、現在自分も絡まれている苦境の立場にありながら、まだまだつぶやきを続けられる余裕も残していた。
「こげなモンスターば前にして、いっちょも怯まんバイタリティ……やっぱ先輩は凄かばい♋」
コロコロと変わる、孝治の先輩に対する評価であった。それはそうとして、ピンチはピンチ。
「うわっち?」
このとき孝治は触手に絡まれながら、耳の端でビリッと、なにかが破れる音が聞こえたような気がした。
「ま、まさかっちゃねぇ……☢」
剣を無闇に振り回してあがきのような抵抗を続けながら、孝治は自分自身の状況を、改めて見回した。
「うわっち!」
なんと徹哉から(無理矢理)借りている紺の背広とズボンのあちこちが、ビリビリと無残にも、ボロボロにされているではないか。
「うわっち! なして巻きつけられて服が破れるっちゃねぇ!」
叫んでから孝治は、タコ足のある特徴に気がついた。
「きゅ、吸盤っちゃね! 吸盤にくっ付いて、服が破れよんばぁーーい!」
しかし気づくのが、これまた遅すぎた。瞬く間に一張羅の背広が一片の切れ端や断片へと変わり、孝治は再び野外で裸の状態近くへと引き戻された。
一応、今度はその切れ端が残っているので、完全なすっぽんぽんは、なんとか(今のところ)免れている状況とも言えた。しかしこのままでは、まさに先ほどの愚行の繰り返しとなってしまうだろう。
「アア、孝治サン、ボクノ服ヲモット大事ニシテホシインダナ」
この期に及んでノコノコと駆けつけてきた徹哉が、実にトンチンカンなセリフを下からほざいてくれた。こいつは恐るべきモンスターを前にして、なんだか無感情😑のような面持ちだった。
「こん野郎ぉ! おれの状況が見えんとけぇ! こげんなりゃヤケクソばぁーーい!!」
孝治は投げヤリ気分になって、モンスターの触手にガブリと噛みついた。その表皮は意外と、拍子が抜けるほどにやわらかかった。
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