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『剣遊記14』

第四章 謎の怪竜出現……いやいやもう大決戦!

     (7)

「うわっち!」

 

「きゃあーーっ!」

 

「わひゃあーーっ!」

 

 四人は大慌てになって、左右にパッと跳び離れた。左側に孝治と友美と二島。右側に裕志であった。

 

 触手の鞭は大地をバシッと叩き割り、地面にけっこう大きなひび割れを生じさせた。しかもこのあとが、さらに大変だった。

 

「うひゃあーーっ! なしてぼくば追っ駆けるとぉーーっ!」

 

 ティラノダコラは左右に分かれた獲物――孝治たちの内、なぜか右側に逃げた裕志のほうに恐ろしい眼球を向け、完全にひとり狙いの感じで疾走していた。

 

「う、嘘っちゃろぉーーっ!」

 

 情けないブリーフ姿のまま、裕志が悲鳴を上げて逃げまくった。

 

「ほんなこつ……なして裕志ばっか追っ駆けるとやろっか?」

 

 一応(裕志の犠牲で)助かったとは言え、孝治にとっても、この事態は不思議な成り行きだった。これに二島が解説してくれた。

 

「これは私の推測でおますんやけど、あのモンスターにはタコの手が付いてはるさかい、ちょっとはタコの習性も混じっておるんとちゃいまっか? 深海に棲むタコっちゅうのは、なんや白いモンが大好きで、すぐに飛びつく習性がおますさかいになぁ✍」

 

「あっ……なるほどやねぇ✎ 今の裕志は黒衣やのうて、白い下着ん格好のままなんやけ♐」

 

 孝治は二島の推測とやらに納得した。しかし当の裕志にしてみれば、これはたまったモノではないだろう。

 

「わぁ〜〜ん! もう早よ帰りたかぁーーっ!」

 

 魔術での反撃すら、もはや考える余裕もない感じ。裕志が大声で泣き叫びながら、必死でティラノダコラの魔手から逃げ回っていた。

 

「と、とにかく、早よ助けにゃいかんちゃよ!」

 

 やや遅まきながら孝治も剣を構え直して、裕志を追うティラノダコラを、うしろからさらに追い駆けようとした。

 

 そこへまたも――だった。

 

「待ちんしゃい! 後輩ばいじめる野郎は、こんオレが許さんのやけね!」

 

 なぜか凛々しく、荒生田が再登場した。

 

「うわっち! 死ぬはずなかっち思いよったっちゃけど、やっぱ生きちょった♋」

 

 当たり前ながら、孝治ビックリ。しかも荒生田は今度もカッコをつけて、剣を上段に大きく振りかざしていた。

 

「往生せえやぁーーっ! こんタコの八っちゃん野郎がぁーーっ!」

 

 グギャッ!

 

 この雄叫びに気づいたのか、ティラノダコラも触手の先端を荒生田に向けて構え直し、二本で攻撃にかかってきた。先ほど触手の先端を斬られたばかりだというのに、攻撃方法にあまり変化なし。ここは学習能力の低そうな、爬虫類系怪物の泣き所なのであろうか。

 

 それはとにかく、荒生田は意気盛ん。

 

「ゆおーーっし! そん根性やよっしゃあーーっ! とあーーっ!」

 

「うわっち! せ、先輩っ! 無謀過ぎっちゃよぉーーっ!」

 

 孝治たちの見ている前で、剣を構えた荒生田が、ティラノダコラに向かって突入した。

 

 次の瞬間、荒生田は簡単に、ティラノダコラの左触手で、バチンと後方に弾き飛ばされた。

 

「あひえーーっ!」

 

 飛ばされた荒生田が、まっすぐ孝治たちの足元に突っ込んできた。

 

そのまま頭から、ドスンと着地。見事にカッコ悪い結末となったわけ。

 

「うわっち!」

 

 しかも着陸の仕方が悪かった。荒生田は孝治の股の下に、これまた仰向けの姿勢で飛び込んでいた。

 

 ここでひと言。

 

「無念、なしてこげなときにおまえはズボンばはいとんけ☹」

 

 孝治は荒生田の顔面を、真上から右足でガスンと踏み潰した。


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