『剣遊記14』 第四章 謎の怪竜出現……いやいやもう大決戦! (6) それはそうとして、左触手の先端を斬り落とされたティラノダコラが、本当の本気で激怒したようだ。考えてみれば友美(バンドウイルカに変身中)に噛み切られて以来、二度目でもあるので。
グギャガアアアアアオオオオオオンッ!
さらに甲高い咆哮を天に向かって上げ、今や完全にその全身を、湖から地上へと露出させていた。
もう何度も繰り返しているが、まさに前世紀の肉食大恐竜ティラノサウルスに、タコの触手の両腕を備え付けた、その恐るべき姿。前傾気味である体形はそのまま。どうして地上性の恐竜が今まで水中にいたかは謎であるが、実に強靭そうな二本足の先端には、鋭そうな爪がピカリと光っていた。
もちろん長いしっぽも、しっかりと所有済み。ひと振りで大木をも薙ぎ倒しそうなド迫力があった。
「こないなけったいな進化やなんて、絶対に自然界の通常の状態では起きへんことでんなぁ☢ 私の長いエルフとしての人生の中でも、今まで聞いたことがおまへんわ⛔」
確かにエルフの長命を持ってしても、ティラノダコラの全身像を、初めて拝見したに違いないだろう。そんな感じである二島が、顔面に蒼白と興味しんしんを同居させたような顔でつぶやいた。
「もっとも……☻」
それからついでか、孝治にも顔を向けた。
「世の中、男性から女性に変わりはったお人かておますさかい、常識外の現象が起こった言うても、百パーセント有り得へん言うのも無理な話でおますさかいになぁ☺」
「こげなときにおれんことば言わんでもよかでしょうに!」
孝治は時と状況を忘れて、大声を張り上げた。
「そ、それよか、なんか対策はなかとやぁ!」
続く孝治の大声に、裕志が今もって情けない格好のままで答えてくれた。
「……た、対策っちゅうたかてぇ、罠もなんも用意しとらんかったっちゃよ☂ こげん早よう、湖のモンスターが出るなんち思わんかったっちゃけ☠ ぼくの火炎弾も効かんかったしぃ……♋」
「あかん、こりゃ☃ 要はおれたちっち、いつもかつもやけど行き当たりばったりっちゅうことやったんやねぇ☠☢」
孝治はこのとき改めて、自分の軽率ぶりに密かな恨みを感じた。せめて万が一の最悪の事態。もしも地上にモンスターが出てきた場合に備えて、それなりの準備を整えておくべきだったのだ。
「でも、裕志くんの言うことも、無理なかっちゃよ☁」
友美も孝治の右横に寄り添って、ティラノダコラに瞳を向けたままで言ってくれた。
「こげなモンスターがおるっちゅうこと予想するほうが、そーとー無理な相談っちゅうもんばい⛑ わたしかて本心ば言えば、ずっと初めは、ただの大きな魚くらいかなぁ〜〜っち思いよったっちゃけ⚠ でも実際は、わたしの想像力ばずっと超えちょったんやけどね⛐」
「と、とにかく、逃げるっちゃあーーっ!」
友美の言う後悔の念が一番もっともであった。だけど事態は、すでに遅すぎた。再びティラノダコラの長い触手が、ビュルルンッと、孝治たちの所まで飛んできたからだ。
二島が言った。
「なんや、ティラノダコラはんのタコ足は、なんや伸縮自在のようでんなぁ☻」
孝治は叫んだ。
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