『剣遊記14』 第四章 謎の怪竜出現……いやいやもう大決戦! (20) 「なかなかやるがやのぉ、ティラノダコラよぉ☻」
なぜか日明が笑っていた。
「ゆおーーっし! 戦いはいよいよクライマックスばい!✌」
先ほどまでの戦意旺盛から打って変わり、今やなぜか口ばっかり。本気で戦う意志が今でもあるのかないのか、全然わからなくなっている荒生田も笑っていた。
このふたりはいつの間にか、戦場から少し離れた池田湖の湖畔にて、事態の成り行きを第三者的傍観の態度で眺めていた。
そんなふたりに向かって、孝治は大きな石ころを投げつけた。
「先ぱぁーーい! それに日明さんかて、なんのんびり見物ば決め込んどるんですけぇーーっ♨ おれたちゃもうボロボロなんですっちゃよぉーーっ♨ 徹哉なんちどげん種族の出身か知らんちゃけど、首まで外れてしもうとんですからぁ!」
「まあ、待つだわさ☻」
石が後頭部にガツンとぶち当たったのに、日明はこれまたなぜか、平然としたもの。牛乳瓶の底のようなメガネを取り出したハンカチで拭き拭きしながら、孝治にぬけぬけと語ってくれた。
「いらんこと言わんでええがや✋ 徹哉クンの首が外れるくらい、あんき(名古屋弁で『安心』)しとってええがや♥ それよりたいがい暴れ過ぎたみたいだがね☛ ティラノダコラが今度こそちょうごたい(名古屋弁で『ちょっとお疲れ』)げさましとうようがんねぇ☕ これはきっと、体の水分がえれぁあ少のうなって弱っとうと、このうわたくしは思うがんねぇ☻」
「弱るぅ? さっきもおんなじことば言うて、そんあとから火ば吐いたっちゅうとにですけぇ?」
孝治は一信九疑の思いながら、日明が左手で指差す方向に瞳を向けた。ふと見れば、孝治だけではなかった。あとからついて来た友美と二島、自分の頭を左小脇にかかえている徹哉も、モンスターに視線を向けていた。
いない者は裕志だけ。
涼子も一応見ているようだ(発光球スタイルなので、表情と目線はわからない)。ついでに言えば、徹哉は首が外れていても、依然としてポーカーフェイス😑のまんま。
しかしそれよりも問題は、日明の言うとおり、ティラノダコラにあった。
「……ほんなこつぅ、さっきよか動きがにぶうなっとうみたい⛐」
友美もモンスターの、さらなる異変に気づいていた。
「……そうっちゃねぇ♋」
今や孝治の瞳にも、それは明らかだった。ティラノダコラはまるでなにかを探し求めているかのように、巨大なアゴ付きの頭部を左右に振り回していた。心なしかその足取りが、なんだかふらふらしているようにも見受けられた。
「確かに、そのようでんなぁ☝」
二島も軽くうなずいて、ついでに解説も(勝手に)始めてくれた。
「当たり前の話から始めるんやけど、恐竜は陸上動物なんやさかい、本来乾燥なんかにはまったく平気なはずでおますんやが、見てわかりますとおり、あのモンスターはんの両手はタコの足になってますよって、水中生活への依存度が、けっこう大きいのとちゃいまっかいな? これはまあ、私の推論なんでおますんやけどな☻ タコみたいな軟体動物っちゅうのは、とにかく乾燥っちゅうもんにぎょうさん弱いもんやさかい、恐らく元の水場を探しよんでっしゃろなぁ♐⛲」
「つまりぃ、水不足けぇ……☀」
二島の推論どおりだとしたら、今度こそモンスターに勝つチャンスではなかろうか。孝治は右手で構えている剣に、チラリと瞳を向けた。
「弱った相手にあんましカッコええもんでもなかけど、モンスター相手に遠慮ばしちょったら、それこそ命がなんぼあっても足らんけねぇ⛑ やっつけるんやったら、それこそ今しかなかばい✊」 (C)2016 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |