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『剣遊記14』

第四章 謎の怪竜出現……いやいやもう大決戦!

     (19)

 さて、ティラノダコラがいったん火を収め、周辺にコゲ臭さが充満する中だった。

 

「徹哉はどげんなったと?」

 

 孝治は逃げる足を止め、瞳を凝らして現場を見つめ直した。幸いにもティラノダコラは火噴きの必殺技を披露して、これまた誰かみたいに自己満足をしたらしかった。火災の現場から悠々と、しっぽを振りながらで立ち去っていた。

 

 そのような中で、徹哉は生きて立っていた。

 

 ただし全身、もちろん黒コゲ。頭はチリチリパーマの状態で、口からは黒い煙を吐いていた。それでもなぜか、着ているランニングシャツと縞模様のトランクスは、しっかりと残っていた。理由は不明であるが。

 

 孝治は裏返った声を上げた。

 

「嘘ぉ……生きちょったとぉ♋」

 

 その徹哉が返事を戻してくれた。

 

「ダ、大丈夫ナンダナ……ボクノぼでぃハ確カニ高熱ニハ弱インダケド、短時間デ冷却スル装置モ同ジク用意サレテイルカラ、ボクノ起動ト操作ニハ全然支障ガ無インダナ」

 

「やっぱし……なん言いよんかわからん?」

 

 しかし瞳に『?』マーク気分な孝治の見ている前だった。根拠不明的に自信満々そうな徹哉の首がなんと、ポキッと胴体から外れ落ち、ポトンと地面に転がった。

 

「うわっち! 徹哉ぁーーっ!」

 

「きゃあ、嘘ぉーーっ!」

 

『頭が取れちゃったばぁーーい!』

 

 孝治、友美、涼子の三人は大慌てで、首の無いままで立っている徹哉の元まで駆け寄った(発光球の涼子は浮遊)。しかし徹哉は生きていた。地面で転がっている徹哉の生首が、ごくふつうにしゃべったのだ。

 

「ダ、大丈夫ナンダナ。ボクハコノクライデハ『死ニマシェーーン』ナンダナ」

 

「徹哉くんって……もしかしてデュラハン{首無し騎士}の一族やったと?」

 

 ここで友美が顔面蒼白気味に尋ねるデュラハンとは、アンデッドの一種で首が外れている騎士の姿をした死霊である。もっとも世間的によく知られているデュラハンは、まさに騎士の格好をしている例がふつうであって、一般市民の服装――それも背広を着用して下着まで着ている事例など、孝治も友美も涼子も聞いた覚えはなし。

 

 しかし徹哉は、友美の問いを否定した。自分で自分の頭をひょいと拾い上げ、それを両手で持って前に差し出し、わざわざ左右にブルンブルンと振る動作によって。

 

「でらはんデスカ? ナンナノカナ、ソレ? 少ナクトモボクハ、製造サレタ日カラキョウマデニ渡ッテ、ソノヨウニ呼称サレタコトナド、今マデ一回モでーたニ記録サレテイナインダナ。ア、ソウダ。モシカシテ一回ダケ、前々回ニアッタヨウナ記録ガ残ッテイル可能性モアルンダナ。修理ノトキニりせっとシタ可能性モアルンダケドナ」

 

「やっぱ、なん言いよんかわからん?」

 

 首が外れていてもとりあえず生きている状態を認識し、孝治と友美と、ついでに涼子は、恐る恐るの足付き(涼子はふらふら浮遊)で、徹哉に近づいてみた。

 

 事態もここまで至れば、もはや残るは興味のみである。

 

「ちょっと……斬れとうとこば見せて♋」

 

 孝治は恐いモノ見たさで、徹哉に訊いてみた。デュラハンの首の切断面など、この先の一生で見られるかどうかわからないので。

 

 徹哉は簡単に応じてくれた。

 

「ハイ、ドウゾ、ナンダナ」

 

 徹哉の本体がしゃべっている自分の生首を、孝治たちの見ている前で引っ繰り返してくれた。

 

「うわっち!」

 

「きゃっ!」

 

 初めはつい小さな悲鳴を上げたふたり(孝治と友美)だった。それから恐る恐るの思いで、孝治は瞳を開いてみた。

 

「うわっち?」

 

 切断面は予想とはまったくかけ離れていて、血の一滴も赤い肉もなかった。徹哉の生首と胴体の切断面は両方とも、なんだか鉄製のような光沢のある金属で蓋がされていた。そこに生々しい部分は、一箇所も見当たらなかったのだ。

 

「……デュラハンの首って、こげん綺麗なモンやったっけ?」

 

「さあ……♋」

 

 あとから瞳を開いたらしい友美も、今や好奇心満載で、切断面を上から覗き込んでいた。発光球スタイルの涼子など、表情はわからないけど恐らくビックリ仰天の顔で、徹哉の首を覗いているに違いない。さっきから周りを、やはりふらふらと飛び回っているので。

 

 友美がつぶやいた。

 

「デュラハンって……こげなもんやったろっかねぇ……?」

 

 孝治は答えた。

 

「おれだって、本モンのデュラハンなんち、実際に見たことなかっちゃよ……♋」

 

「で、でもぉ……☁ なんかそれと違うような気がするっちゃけどぉ……?」

 

「あっ……もうよか

 

 なおも聞きたがっている友美の前に右手を差し出し、孝治は話を強引に終了させた。これ以上徹哉に説明をさせている暇など、現在まったく有り得ないものだから。

 

「もう、デュラハンでも別のモンでも、なんでんよか✑✒ 今はそれどころやなかけね✄」

 

 孝治のつぶやきどおり、徹哉の左横には裕志が立ち尽くしていた。その彼を二島が介抱中。足腰ふらふらの裕志に肩を貸して、なんとかして立たせている状態。しかも二島はともかく裕志のほうは、どうやら徹哉の首切断には、全然気がついていない感じ。まさしくそれどころやなか――という感じで、ひとり呆然とつぶやいていた。

 

「ひ、火ば吐いたぁ……もうぼくの手にはいっちょも負えんばい☠」

 

 (こちらは首が繋がっている)裕志も徹哉と同じで火炎のとばっちりを受け、全身真っ黒けの有様だった。ただし着ていたブリーフについて――いや、もう多くを語るまい。

 

 二島の自嘲的な含み笑いのみが、孝治の耳に印象的な感じで聞こえてきた。

 

「いやはや、私の長命なエルフの生命を持ってしましても、今回は生半可な経験値を超えた、けったいな出来事ばかり起こりまんなぁ☻ こりゃ帰って作曲する新しい伝承歌が、私ごとながら楽しみってもんでんがな


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