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『剣遊記14』

第四章 謎の怪竜出現……いやいやもう大決戦!

     (2)

 そいつ――池田湖から現われた前世紀の肉食大恐竜は、まさにティラノサウルスそのもの。

 

 もちろん孝治を始め、湖岸にいるメンバー全員、本物のティラノサウルスを目撃するなど、一生かかっても有り得ない話だと思っていた。なにしろティラノサウルスに限らず本物の恐竜自体が六千五百万年前に滅び去っていて、現代では博物館の化石展示でしかお目にかかれない存在であるから――いや、あったからだ。

 

 その信じられない大恐竜が、いかにも場違いな湖から、大きな波を立てて陸地に上がろうとしていた。

 

 グギャアアアアアオオオオオン!

 

 それこそ恐竜図鑑での記載そのまま。二本足での前傾姿勢。顔面の鼻先をもろ前へと突き出し、時々開いて咆哮する口の中には、孝治と友美と涼子の三人で海底で見たとおり、巨大で恐ろしい牙が何十本も生えそろっていた。

 

 ただし、図鑑と大きく違う部分が二箇所。これは孝治でさえティラノサウルスをワニと誤認していたときから変わらない所なのだが、本来ならあまり大きくないはずの両腕(ティラノサウルスの腕――前肢は人間より小さい)が、見事なタコの触手となっているのだ。

 

「こ、こりゃあ……ティラノダコラだがやぁーーっ!」

 

 なにを突然血迷ったかは不明だが、急に日明が奇声を上げた。

 

「うわっち! てぃらのだこらぁ?」

 

 あまりの現況との乖離ぶりに、孝治は頭が混乱した。

 

「あんた……こげな状況んときに、なん能天気なこつ言いよんねぇ!♨ なんか、昔そげな名前の怪人ばっか造りよった、悪の秘密結社ば思い出すとやけどぉ……♋」

 

 孝治は思わず日明に文句を言ってやったが、それを二島が、冷静に宥めてくれた。

 

「いやいやいや孝治はん、ここは新種のモンスターが出はったんやさかい、新種に名前と言うもんは必要でんがな✍✉ ここは日明はんが言われるとおり、あれは『ティラノダコラ』で決定ってもんやおまへんか✑✒ とにかく池田湖の謎のUMAの正体は、あれで決まったようなもんでんなぁ♐」

 

「そ、そげなもんですかねぇ……?」

 

 孝治はいまいち納得のいかない気分であった。同時にムキになって反論するほどの話でもないこともわかっていた。

 

「ま、それならそれでもよかっちゃですけどね☢」

 

 孝治は胸の内に湧き上がる疑問を根性で抑えつつ、それ以上に迫っている危険を、全員に向けて訴えた。

 

「と、とにかく名前よか、早よこっから逃げるほうが先決ですっちゃよ! そんティラノダコラとやらが上がって来よんやけ!」

 

 今はこれが一番の大問題。現実にティラノダコラが一歩二歩と、確実に上陸しつつあったのだ。

 

 これとまともに戦おうなど、孝治はカケラほどにも考えなかった。なんと言ってもこれにて、池田湖のモンスターの正体がわかったのだ。だからこれ以上の無茶は御免被って、一刻も早く現場から遠くに逃げるべきであろう。そのあとは地元の衛兵隊にでも通報をして、彼らに対処をしてもらえばよい話であるのだから。

 

 だがもちろん、孝治のような消極的姿勢を、良しとしない者が身内にいた。

 

「ゆおーーっし! ほんまもんのモンスター出現ともなれば、今度こそオレたち探検隊……いや、地球防衛軍の出番ったぁーーい♡ 裕志ぃ! 孝治ぃ! 逃げるんやのうて決戦に向かわんけぇーーっ!」

 

 やっぱり復活に復活を重ねていた荒生田が、両手で構えた愛用の剣を大きく上段に振り上げ、高らかに宣言をしまくっていた。


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