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『剣遊記14』

第四章 謎の怪竜出現……いやいやもう大決戦!

     (18)

 孝治は叫び、先ほどひどい目に遭わされたばかりである二島も、同意のようにしてつぶやいていた。

 

「やれやれ、やっと私の出番が終わったばかりやのに、まだまだ休憩もいただけないようでおますなぁ☻」

 

 二島はやはり疲れている様子で、地面に腰を下ろしていた。それがのっそりと立ち上がり、体中の埃をパンパンと、右手で払い落とし始めた。

 

「では孝治はんに友美はん、また逃げることにしますがな✈ これはもう、今回のお約束事みたいなもんでっしゃろ☻」

 

「言われるまでもなかぁーーっ!」

 

 孝治は二島よりも素早くの猛ダッシュ。右手にはしっかりと、友美の左手を握っていた。また頭上の発光球――涼子も、猛スピードで孝治についてきていた。もはや『浮遊』とは言えない速度であった。

 

「どけどけどくっちゃあーーっ!」

 

 そんな孝治たちの逃げる前には、なぜかモタモタしている裕志がいた。

 

「わわわあーーっ! なしてぼくん所に来るっちゃねぇーーっ!」

 

 裕志も叫んだ。間違いなく孝治たちの背後にいる、巨大なティラノダコラの恐ろしい姿を目の当たりにして――だろう。

 

 それでも孝治は叫び返してやった。

 

「なんでんよかけぇ、火炎弾ば発射してやぁーーっ!」

 

「う、うん!」

 

 ほとんどパニックとなっている頭には、具体的な指示がよく効いた。裕志は瞬時に呪文を唱え上げ、両手をティラノダコラに向けて火の玉を噴出させた。

 

 もう火炎弾に効き目が無い事実など、孝治にもとっくにわかりきっていた。だけど今は、これで相手の足を止めさせるしか、他に方法がなかった。

 

 それでもなんとか、裕志の手の平から飛んだ火炎弾が、またもティラノダコラの顔面にボワンと命中した。しかしもはやモンスターのほうでも、慣れの境地に達しているようだった。一発の火炎弾ごときではビクともせず、逆に大きな口を、孝治たちに向けてカパッと開いた。

 

 そこでなんのつもりか知らないが、徹哉がモンスターと孝治たちの中間に、まるでしゃしゃり出るように割り込んできた。

 

「コレ以上ノ暴力ハ、コノボクガイケナイト思ウンダナ。モットミンナデ、平和的ニ話シ合ウベキダトボクハ思ウンダナ」

 

 白いランニングシャツと縞々{しましま}トランクス姿で、いまいち締まらない格好だった。そんな徹哉がいかにもな非戦を叫んで、両手を大きく左右に広げたポーズとなった。

 

 突進してくるティラノダコラの真ん前で。

 

 ところがとたんに、ティラノダコラの開いた口から、ボワアァァァァァァッと赤い火炎が噴射された。

 

「う、嘘っちゃろ……♋」

 

「でも、ほんとみたい……♋」

 

 孝治は我が瞳を疑った。友美も同じ心境のような、丸い瞳になっていた。また発光球スタイルで、現在表情のわからない涼子でさえも、その口調は驚きで満ちていた。

 

『恐竜が火ば吐くなんち、あたしも聞いてなかっちゃよ☢』

 

 ところがこの中で、二島のみがセリフで驚きを表明しているものの、一応平静を保っているような態度でいた。

 

「こりゃ私もビックリ仰天ってもんでんなぁ♣ 世の中ほんま、常識とか経験では計り知れんことがぎょうさんおますもんですわ♐」

 

 自分の使命を達成しきった気分でいると、もうなんでも来いの高地に立てるのだろうか。


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