『剣遊記14』 第四章 謎の怪竜出現……いやいやもう大決戦! (17) 孝治たちに大災難を与えてくれたティラノダコラは、今度は再び荒生田に狙いをつけていた。
「ゆおーーっし! こっち来るけぇ!」
孝治の瞳に写る荒生田は、意味もなくわめいていた。
「あのおっさん、本気なんやろっか?」
そんな思いと同時だった。
グギャオオオオオオオオオオオンッ!
次の標的(荒生田)を見定めたらしいティラノダコラの雄叫びは、どっか歓喜に満ちとうみたいっちゃねぇ――背後から眺めている孝治には、そのように感じられた。
「ゆおーーっし! 相手にとって不足はなかぁ! どっからでもかかって来んねぇ!」
この期に及んで大言壮語な荒生田であった。ところがどのように贔屓目に見たところで、自分からかかって行く気はなさそうだ。剣を構えてはいるものの、小高い丘の上から叫んでばかりいるものだから。
「さっきまでけっこう近くで剣ば振りよったとに、ティラノダコラの皮が固いけん、先輩も一応用心ばしよんやねぇ☻」
孝治は荒生田の振る舞いを、もう好意的――あるいはポジティブ的に考えるようにした。そんなサングラス😎の戦士の態度など、ティラノダコラにとっては全然関係ない感じ。まっすぐに目標を定めて、二本の足でドドドッと駆け込んだ。一説によるとティラノサウルスは、時速五十キロぐらいの猛スピードで走れるらしい。もちろん目撃者などいないので化石の研究による推測でしかないのだが、現実にティラノダコラは速かった。
「ヤバっ☠」
ようやく事態が冗談ではない事実を悟ったらしい荒生田が、慌てて背中を向けて駆け出した。その様子を遠方からジッと見ている孝治は、もはや助ける気にもなっていなかった。ただ少し離れた所から、他人事気分で眺めているだけ。
『孝治、先輩ば応援せんでもよかっちゃね?』
涼子が当然の疑問を言ってくれるが、孝治はさらりとかわしてやった。
「よかっちゃよ★ だいたいこげなことになったんも、先輩に責任の一端があるっちゃけ♐ ここらで先輩に後始末ばつけてもらうっちゃよ☕」
「孝治はそんつもりでも……先輩はそげん思うとらんみたいっちゃね☜」
「うわっち?」
友美が右手の人差し指で差す先を見てみれば、逃げる荒生田が進路を変え、孝治たちのいる方向へ走ってきた。
無論あとからティラノダコラが迫っていた。
「うわっち! また来たっちゃあーーっ!」 (C)2016 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |