『剣遊記14』 第四章 謎の怪竜出現……いやいやもう大決戦! (15) 「うわっち! ティラノダコラがこっちば向いたっちゃ!」
先ほどまでの戦いとは違う絶叫を、孝治はこれまた大声で張り上げた。なんとティラノダコラが孝治と二島の方向に目先を変えて、ドドドッと突進してきたのだ。
たった今までの『ガス欠気味』うんぬんが、まるで嘘のような感じであった。
「もしかして、二島さんの声がうるさかったんちゃうんねぇ!」
孝治は責任押し付けのように叫んだが、実際原因を、これ以上推察する余裕もなかった。
「あっ! 今、ティラノダコラが進路を変えはりました! どうやら私どもの所へ向かってくるようでおます!」
「ゴタゴタおらんどらんで、早よこっち来やぁーーっ!」
孝治はなおも叫び続ける二島のうしろエリ首を、素早く右手で引っつかんだ。
強引に。
それからたまたま近くにあった大木によじ登った。
ふたりいっしょになって。
あとで冷静になってから考えてみれば、事態のよけいな悪化――そのものだった。
しかしそのような後悔に気づくのは、もっとあとの話(『すぐ』とも言えそう)。とにかく孝治は二島の尻を蹴り上げ、なかば強制的に大木(南国鹿児島らしく、タブノキのようだ)に上がらせた。
「おらぁ! 早よせんねぇ!」
その途中にある大きな枝の所で、二島が実況中継を再開させた。
「ただいまティラノダコラは我々取材陣のいる、この大木に向かって来ております☠ もう私にも孝治はんにも、退避する暇{いとま}もあらしまへん⛔ 我々の命もどうなりますことやら☢」 (C)2016 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |