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『剣遊記14』

第四章 謎の怪竜出現……いやいやもう大決戦!

     (12)

 それでも戦闘そのものは続いていた。

 

 孝治と荒生田のふたりで剣を振って、ティラノダコラの体のあちこちに波状攻撃を仕掛ければ、友美と裕志も引き続き、火炎弾の連続発射を繰り返していた。

 

 涼子は今も発光球スタイルなので、ポルターガイストでの援護ができない状態。また吟遊詩人である二島は、やはり戦闘には不向きな職業柄、よけいな解説的ナレーションに自分の居場所を定めていた。

 

「信じられまへん! まったく信じられまへん! 見渡せばティラノダコラの猛威の下、人外の激闘がここ、池田湖と開聞岳を背景とする、薩摩半島南端で繰り広げられておまんのや☀ あっ! ティラノダコラが今進路を変えはったようでおます! どうやら荒生田はんに向かうようでおまんがな♐ 全世界の皆はん、これは劇でもドラマでもおまへんで 現実の奇跡、世紀の怪事件っちゅうもんや 私らの文明は、一瞬にして二百万年の昔に引き戻されたんとちゃいまっか♋

 

「うわっち! もうしゃーーしかぁ!」

 

 耳障りなことこのうえもないが、もう怒鳴り返す余力すら、今の孝治には乏しくなっていた。

 

「うわっち!」

 

 そこへまたもや触手が、明らかに孝治を狙って伸びてきた。それを間一髪の戦士の敏捷さでかわし、孝治は剣での反撃を繰り返した。残念にもこれは空振りに終わったが、無論モンスターの攻勢は、この一撃のはずがなし。今のが右の触手だったので、お次は左の触手が襲ってきた。

 

「これで本モンのタコ足のとおり八本もあったら、とてもまともに戦っておれんちゃね♋」

 

 孝治の全身を、ボタボタと熱い汗が流れていた。今の孝治は先ほどから表現しているとおり、徹哉の背広の切れ端で緊急的にこしらえた、上下のビキニ(?)のみ。ところがこのスタイルが、やはり荒生田の欲情を刺激するようなのだ。

 

「ええか、孝治、ずえったいに油断するんやなか!」

 

「……と言いつつ、おれの尻にほっぺた付けんでもよかでしょうに!」

 

 孝治はお尻に頬ずりまでしてくれているサングラス😎の先輩を、大ジャンプによる飛び蹴りで撃退してやった。

 

「ったくぅ、目ん前のモンスター以上に先輩のほうが油断ならんのやけぇ♨」

 

 孝治はペッと、地面にツバを吐いた。

 

「もう逃げたほうがよかやない?」

 

 ここで魔術疲れが一目瞭然そうな青い顔の裕志が、早くも情けない弱音を洩らしていた。実際攻撃魔術の連続使用で顔面蒼白であるし、体全体が疲労でふらふらしているようでもあった。

 

 その状態であれば、友美も同様だった。

 

「わたしかてもう限界近いっちゃよ そもそもこんモンスター、倒す必要あるっちゃろっか?

 

「そ、それば言うたらぁ……そうなんやけどねぇ?」

 

 友美から言われて孝治は、まさしく根本的な疑問に突き当たった。実際、いくら恐ろしいモンスターとはいえ、秘境に棲んで人に迷惑さえかけていなければ、ほっておいてもなんの問題もないはずなのだ。

 

 だいたい、伝説や神話におけるモンスター退治の話とてその大半は、人がよけいなちょっかいをかけた結果、嫌でも暴れ出す事態に至った結末がほとんどと言えた。

 

「ほんなこつ、ええ加減撤退ばしたほうがええみたいっちゃねぇ あとはティラノダコラがこん池田湖で静かに暮らしとったら、おれたちの冒険はそれで終わりなんやけ✄

 

「そ、そうっちゃね♋」

 

 裕志が一番で、孝治の意見に賛同してくれた。まあ状況を考えれば当然なのかもしれないけれど。


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