『剣遊記 番外編W』 第三章 西方海上波高し。 (9) そのような調子で、妙に盛り上がっている(?)船の真下の海面。
「なんか上んほうがおめきようみたいやねぇ? まあ、よか☆ やっぱ事件現場っちゅうもんは、こぎゃんないといかんばい♡」
これからその『おめいている』船に殴り込みをかけようとしている清美は、胸に込み上がる躍動感そのまま。もう燃えて燃えて、仕方のない心持ちでいた。
この不審船のオーナーが、麻薬密輸犯の大豊場であろうとは、今現在知りようもなかった。しかしそのような些細な話(?)など、もはや関係なし。
「やるばい、トクっ! あんおちゃっかどもば全員、ひっきゃぶってひちゃかちゃにしちゃるばいねぇ!」
「もう、ボクは知りませんけね☠ これで殉職ばして、二階級特進やけは御免ばってんね☢」
徳力はすでに、ブツクサとぼやくしかできなかった。それでも相棒の女戦士に続いて、自分たちの漁船から大型の帆船へと飛び移るアクションは、きちんとこなしていた。なぜなら低速で大型船に突入――と言うよりも衝突をしたので、相手の船には乗員をすっ転ばせた効果以外、けっきょく大した損害を与えられなかったのだ。その反対に、漁船のほうこそダメージが大きくて、哀れ沈没の憂き目となっていた。
まあ、初めにだいたいの予測はついていたのだが。
そんな理由で、徳力も仕方なしで船を捨てたわけ。このまま清美について行くしかないのだが、それでも不審船からの弓矢による攻撃を巧みにかわし、見事敵船への体当たりを成功させた腕前は、それなりに大した実力と言えるだろう。
「よっしゃあーーっ! トクぅっ、行っちゃるけねぇーーっ! 天気晴朗なれど波高し! 西の海は大荒れの模様ってかぁーーっ!」
「はいはい☠」
まるで好対照な清美と徳力。逆に申せばこれこそ、コンビ長続きの秘訣であろうか。 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |