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『剣遊記 番外編W』

第三章 西方海上波高し。

     (8)

 大豊場の号令一下、密輸船の船倉から、何人ものムサい顔をした野郎どもが、のっそりとした動作で甲板上に現われた。

 

「やっとわしらの出番のようばいねぇ☠」

 

 いずれもこのような突発的事態――衛兵隊からの臨検などに備えて、以前から金をかけて集めていたゴロ付き連中――つまり用心棒である。

 

「よかね! おしら!」

 

 そんな彼ら(総勢十人)に向かって大豊場が、例のごとく大声で叫んだ。

 

「攻めて来たんは女ひとりやけ! だけん、なんの遠慮も要らんばい! 徹底的にひっちゃかめっちゃかしてやりやぁーーっ!」

 

 とたんに用心棒どもが、大きな気勢を張り上げた。

 

「ぬおーーっ! 相手は女ねぇーーっ♥」

 

「やったばぁーーい! ひっさしぶりに思いっきりやれるとよぉーーっ☻」

 

 なにが『やれる』かは、このような連中が申す妄言なので、説明するのも馬鹿らしい。しかしここで大豊場は、相手の『女ひとり』が獰猛な女戦士の本城清美である事実を隠していた。

 

(名前ば言うたらぞーたんのごと、こいつらでも逃げ出しかねんけねぇ……♋)

 

 これが秘密の理由であるのだが、とにかく彼らには、金を払っている分は働いてもらわないといけないのだ。

 

 ケガの補償などは一切やらないけど。


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