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『剣遊記 番外編W』

第三章 西方海上波高し。

     (7)

「ふぅ……ごほっ! げほっ!」

 

 そんな大豊場の絶叫が、ひと段落したところだった(咳付きで)。突如ドッガァァァァンッと、船全体に振動が響き渡った。このため甲板上にいた何人かが、たちまちすっ転ぶ事態となった。

 

「せ、船長! たった今弓矢で攻撃した船が、おいどんたちの船に体当たりっちゅうひっちゃかめっちゃかしてきやしたぁ!」

 

 船員のひとりが叫んだ。そいつは持っていた弓矢を、衝撃で海に落としていた。

 

「見ろやぁ! だけん言うたとばぁーーい!」

 

 すっ転んだ者のひとりである大豊場が、甲板上で寝そべった格好のまま、やはり大きな声でわめきまくった。

 

「あいが船に乗り込んできたら、もうお終いやけぇーーん! 絶対にひっちゃかめっちゃかに暴れ回られるとやけねぇ!」

 

 初めはポカンとしていた船長も、今や大豊場と同じ有様の顔になっていた。ついでに今の彼の格好は、腰を抜かして甲板に尻を付けている状態。

 

「ど、どがんします! そがんなったらこん船が麻薬ば密輸中やっちゅうことがバレてしまいますばぁーーい! そがんなったらわたしども全員、刑務所行きばってぇーーん!」

 

「うおのれぇーーっ! そもそもなして、こん辺境ば海にしゃっちが本城清美がおって、オレたちとどーまた遭わんといけんとやぁ! いくら偶然っちゅうたかて、話が出来過ぎばぁーーい!」

 

 もちろん大豊場が嘆くとおり、これは偶然の言わば産物であろう。しかし偶然とは予想外に高い確率で、けっこう頻繁に起こり得る現象なのだ。例えば宝くじの一等がよく出る売り場と、そうでない売り場が存在するように。

 

「た、大豊場様ぁ〜〜☂」

 

 もはや泣き顔に近い船長であった。そんな雇われの下っ端、名ばかり船長に向って、大豊場がさらに特大級の金切り声を張り上げた。

 

「こがんなったらヤケクソばぁーーい! こん船んモンば総動員して、本城清美に反撃するとたぁーーい!」


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