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『剣遊記 番外編W』

第三章 西方海上波高し。

     (5)

 しかしまだまだ、遠距離であったことが幸い。清美と徳力が乗っている船の周辺まではなかなか矢が届かず、なんとか命中は、今のところ一本も無しで免れていた。ところがそれでも、清美の過剰気味な闘争心に点火するには、充分過ぎるほどの愚かな振る舞いであったのだ。

 

「まっごあくしゃうつぅーーっ!」

 

 なにしろもともとから、火薬のような性格なので。

 

「あぎゃんおっこいつきやがってぇーーっ! トクぅ! あん船にがまだして全速力で突っ込むったぁーーい!」

 

「そりゃ、かんなしだん!」

 

「せからしかぁーーっ!」

 

 とっくに覚悟は決めていたとはいえ、命令された徳力がせまい船室内で飛び上がった行動も、これはこれで絶対に無理のない話であろう。おかげで天井に、頭をゴツンとぶつけたりもした。

 

「そ、そぎゃんこつ……相手は大型船やのに、こぎゃんたいぎゃこまかい船じゃ、相手になりませんばってぇ〜〜ん☃」

 

「せからしかぁーーっ! こっちが沈没ばしたら、そんときゃあっちの船ば拿捕して取り上げりゃ済むこっちゃなかねぇ! とにかくいきなりおっこいつきて攻撃してきたんが、犯罪絡みの証拠なんばい! グダグダおめきよったら、ぬしば海ん上に放り込んじゃろうけぇ!」

 

「はいはい☻」

 

 相棒である清美のムチャクチャぶりなど、徳力にとってはすでに、慣れの境地のはずでいた。そのため反抗など、夢のまた夢。言われるがままに徳力は舵を切り、不審な帆船の方向に、改めてもう一度船首を向け直した。

 

 清美が望むような『全速力』には到底及ばないものの、早い話が『ヤケッパチ』。

 

 これではもはや、どちらが怪しい船なのか、まったくわからなくなってきた。


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