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『剣遊記 番外編W』

第三章 西方海上波高し。

     (1)

 滝からほとばしる水しぶきが、ドドドドドッと周辺に舞い散る中だった。

 

「はっくしょん! はっくしょん!」

 

 清美は彼女の日頃の言動からはまったく不似合いな、可愛らしくて小さなくしゃみを連発した。

 

 理由は簡単明快。彼女は無人島にある、恐らくは今まで、人跡未踏であったのだろう。そのように思われる綺麗な滝の近くにある岩場の上で、全裸のまま昼寝をしていたものだから。

 

 堂々と仰向けの格好で(つまりが大の字)。

 

「ん……朝け……?」

 

 清美が寝呆けている理由も、これはこれで無理がなかった。清美は裸で島に上陸してから、それこそ産まれたまんまの、あられもない姿。そのままの格好で、島の野山を駆け回ったのだ。ただし清美の玉の肌には、歴戦による剣傷が、体中に何十個所も刻まれていた。

 

 それはさて置き、何日も続いた、なにも起こらない退屈な哨戒任務の憂さを、全部晴らしちゃろう――のつもりに、清美はなっていた。それから多少の疲れが出たようだ。涼しい滝の近くで、しばしの快眠となったわけ。

 

「……まっ、朝んはずなかろうがねぇ……☻☺」

 

 くしゃみのおかげで目が覚めた清美は、上半身を岩の上から起き上がらせた。

 

 清美には、この物語の登場人物(特に女性。中には例外“K”も)によくある共通した性癖――つまり大胆豪放な性格があった。それは他人の視線さえ周囲になければ、大自然の中で全裸をためらわない、実に開放的性質なのだ。

 

 ただし、『他人の視線』と記したように、相棒の徳力にも、自分の裸を見せる行為は絶対の御法度。その相棒は、現在海上に浮かんでいる船の上。なにかよほどの事態でもない限り、島への上陸は厳重に禁止させていた。

 

 つまり島は事実上、清美の完全独占状態下にあるわけ。

 

「さて、船に戻るばい〜〜っと✈」

 

 岩場の上で立ち上がり、清美が全身大きな伸びをして、自分を眠気から解放させた。

 

 大事な任務を忘れて、散々に遊びまくったわけである。この辺で元の仕事に戻らないと、さすがに相棒のドワーフに悪いような気もしてきた。

 

 清美にだって一応は、気配りの精神くらいはあるのだ。

 

 従ってあとに控える問題は、清美は真っ裸のままで泳いで、船まで戻らないといけない――このひとつに尽きた。だけどそのときは、海面から大声で帰船を叫び掛け、徳力を再び船室の中に引きこもらせればOK。その程度な話とも言えた。

 

 そんなつもりで全裸の女戦士が、滝から海岸へ向かおうとした。恒例で、そのときだった。

 

「清美さぁーーん!」

 

「なにぃっ!」

 

 あれほど『島に来るんやなか!』――と厳命していたはずの徳力がなぜか上陸して、大声で清美を呼んでいた。


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