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『剣遊記W』

第一章  流れ着いた男たち。

     (11)

(もう! 融通ば利かせんドワーフさんちゃねぇ!)

 

 自分でも身勝手は承知済み。しかしそれでも内心で愚痴を繰り返しながら、孝治は横目で徳力をにらんでやった。敬意はとりあえず脇に置いて。そんなところで彩乃が突然、キャンキャンと騒ぎ出した。

 

「きゃん♡ 帆柱さんが来たばぁーーい♡」

 

 どうやら表彰式を終えたらしい帆柱が、未来亭の面々が陣取る応援席へ、堂々の凱旋をしてきたのだ。しかも胸を張っているケンタウロスの右横には、なぜか黒いサングラスの男がひとり。コバンザメのようにくっ付いていたりもする。

 

「帆柱さぁーーん♡ 大会五連覇おめでとうございまぁーーっす♡」

 

 さっそく給仕係一同を代表して、香月登志子{かつき としこ}から花束が贈呈された。これにはさすがのベテラン戦士も、ポッと照れた顔になっていた。

 

「や、やあ……ほんなこつ、ありがとう……☺」

 

 ふだんの逞{たくま}しさからは、まるで想像もつかない恥ずかしがりようだった。

 

『帆柱先輩って、ほんなこつモテるっちゃねぇ♥ あたし、こげん人気があるなんち、ちいとも知らんかったけね♪』

 

 給仕係たちがケンタウロスの戦士を取り囲んでいる光景を眺め、涼子が感心気味にささやいた。そのセリフを耳に入れると孝治も、なんだか自分まで鼻が高い気分になってきた。

 

 つい今しがたの苦しい状況も忘れて(単純)。

 

「そりゃ帆柱先輩は力は強かとやし気は優しかやし、おまけにイケメンやけねぇ♡ それに比べてやねぇ……☛」

 

 ついでに返す刀の思い。孝治は横目で、サングラスの人物に視線を向けた。

 

 その人物は現在、給仕係たちのおのれに対する扱いに、大きな不満をぶち撒けていた。

 

「お、おい! オレに花はないとやぁ♨」

 

 同じ大会の優勝者であるにも関わらず、サングラスの人物――未来亭の戦士荒生田には、誰ひとりとして花束を渡す者がいないのだ。

 

 だが、この不満に対する彼女たちの返答は、実に簡単なものだった。

 

「そげん言うたかて、買{こ}うてなかけんね☠」

 

「ほしかったら、そこら辺のタンポポでもつんだら☠☛」

 

 もち、荒生田のドタマが大爆発。

 

「てめぇーーらぁーーっ! こんオレになんか恨みでもあるとかぁーーっ!」

 

「あるっち思うばい♐」

 

 荒生田から遠く距離を置いて、孝治はこそっとささやいた。

 

「荒生田先輩、日頃っから由香{ゆか}たちの尻ば、さわりまくりやけねぇ……これはおれかて、被害者の会の一員なんやけどね✄」

 

 また友美も、孝治に同感してくれた。

 

「セクハラの恨みって、奥深いけねぇ〜〜✍」

 

 結果、ふだんからの自業自得とはいえ、女の子たちから一本も花をもらえなかった荒生田。ここでいつもの定番。自分の子分で後輩の魔術師――牧山裕志{まきやま ひろし}に、八つ当たり丸出しの怒鳴り声を張り上げた。

 

「もうよかぁーーっ♨ 裕志ぃーーっ! 今夜の祝勝会の店ば、ちゃんと取ってあるんやろうなぁーーっ!」


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