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『剣遊記W』

第一章  流れ着いた男たち。

     (10)

「な、な、な、な、無い、無い、無い! のうなっとぉーーっ!」

 

 不慮の魔術事故――と言うより『とばっちり』であった。とにかく孝治の男性から女性への性転換事件は、いまだ人々(?)の記憶に新しいところ。

 

 それから早や数ヶ月。孝治は実生活上での不便を解消するため、黒崎に便宜を図ってもらいながらも仕方なく――さらに不本意でも、役所の戸籍などの書類を、男性から女性に書き換える手続きなどを行なっていた。

 

 つまり闘技大会での選手登録も、その過程のひとつなのだ。

 

 結果、昨年までは男子の剣技に出場していた孝治。今年から女子の部への鞍替えを、事実上強制されたわけ。

 

「そんでまた予選落ちになっとんやけ、ほんなこつ世話なかばい☠ おととし去年と男女関係なしで予選落ちの常連なんやけねぇ☝ しっかせえよ!」

 

『えっ! 孝治って、男んときから負け続けやったと?』

 

 清美の暴露話を耳に入れた涼子が、ここで驚きの顔となった。ちなみにこの場面でも繰り返すが、涼子の姿は清美と徳力には見えていない。もし見えていれば、友美と同じ顔がふたつあることに、さすがの女豪傑もビックリしたりして。

 

 いちいち解説するのも、少々面倒になってきたけど。

 

「ま、まあ……そうっちゃね……☃」

 

 幽霊からきつい質問を受けた孝治。今や顔面が真っ赤っかの思いとなっていた。そんな孝治を見つめる涼子の瞳には、幻滅の色がしっかりとありあり。

 

『呆れたっちゃねぇ〜〜☠ 孝治っち、もっと強かっち思いよったとにぃ……✄』

 

 それなりにイメージダウンをされたものである。しかしよくよく、孝治は考えてみた。そう言えば涼子が見ていた孝治の戦闘場面の相手は、ほとんどが小さめの怪物か、あるいは頭が働かないグール{食屍鬼}のような雑魚ばかりだった気がする。

 

 他に山賊のような連中も、そんなに強い敵とは言えないか。

 

 ただし例外といえば一度、南九州の霧島山において、多数対一で騎士の一団と戦った経験はあった。しかしそれとて、帆柱先輩が助太刀に参上してくれたおかげで、ようようの思いで形勢逆転ができたはずであった。

 

『そげん言うたら、あたしん記憶ん中で孝治がまともに戦うのを、あんまし見たことなかっちゃねぇ〜〜✍ ねえ、もしかして孝治って、ほんとは弱いと?』

 

「しゃあしぃったい♨ よけいなこつ思い出さんでよか!」

 

 涼子の存在が秘密であることを棚に上げ、孝治は無我夢中で怒鳴り散らした。当然これらの振る舞いは、周囲を本当にビックリさせる展開。中でもケンカっぱやい清美に聞かれた失敗は、まさしく致命的といえた。

 

「孝治っ! 誰に向かってそげな口おめきよっとね! ええっ!」

 

「うわっち! あっ……そ、それはぁ……そのぉ……徳さんにね……♐☁」

 

 さすがにこれはまずかぁ〜〜っと考え、舌を噛みつつ孝治は、苦しまぎれの矛先転換でごまかした。ちなみに徳力はドワーフであり、並みの人間である孝治たちより、遥かに長寿で年上である。だからそこのところは敬意を払って、孝治は徳力を親しみ付きの『さん』付けで呼んでいる。

 

「えっ? ボ、ボクはなんも言うちょりませんばい!」

 

 敬意の件は良しとして、孝治からいきなり名指しを受けた徳力が、両目を思いっきり丸く開いていた。ついでに頭も、横にブルブル。


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