『剣遊記15』 第三章 無人島、バカンス三昧! (2) 「本日皆はんにお集ましてもろうたんは、他でもありまへんのや♠」
美奈子が孝治たちを呼んだ場所は、ブリッジ横の船室。中規模の教室みたいな部屋だった。だけどこの場はとても殺風景で、長めのテーブルと人数分の折り畳み椅子以外、ほとんどなにも無いような所でもあった。
早い話が、どこにでもあるような会議室みたいな感じか。
「他でもなけりゃ、なんやろっか?」
美奈子の立ち位置から一番離れている椅子に座った孝治は、上目遣いの気持ちで、彼女に尋ね返してみた。
ちなみに居並ぶ一同、変化はまったく無し。それこそこの帆船に乗っている者たち、七人のみ(涼子含む)。それも今や、全員が全員、真夏仕様の水着スタイルで通していた。もちろん順応しきっている気満々でいる孝治も冒頭から表現しているとおり、オレンジ系統のビキニスタイルのまんま。しかしそれよりも大きな問題は、やはり第一章で早くも公開されているように、美奈子の超マイクロビキニスタイルにある――と、孝治は口には出さないようにして思い続けていた。
(初めて見せられたときは、ほんなこつ心臓が飛び上がったもんばい☠)
直接この件で話していないけれど、たぶん友美と涼子も同じ思いでいるだろう。なにしろ美奈子は、ほとんど糸と申し訳程度の布切れで、体の一番大事な三箇所(説明不要)を隠しているだけの、ほぼ全裸的水着姿でいるのだから。
(はっきり言えんけど、涼子のすっぽんぽんより強烈っちゃねぇ☢)
頭の中身に、まだまだ男の要素が残っている孝治としては、毎日瞳のやり場に困り過ぎる――と言うものだ。まあ、その件は航海の間中、棚の上の上のまた上に載せておくとする。どうせ人からの注意や忠告など、まったく聞かないお嬢様でもあるのだし。それよりも問題な件は、美奈子の話の続きであった。
「皆はんもご承知してはるとおり、今このらぶちゃん……いや、まあその、ラブラドール・レトリーバー号はんは、九州の南を航海中でおます⛴」
「そげなん、わかっとうとやけどねぇ☻」
孝治は超小声で突っ込んだ。美奈子には聞こえないようにして。なぜなら、あとが怖いから。その代わりでもないが、友美には聞こえていた。
「しっ!」
友美が右手人差し指を口の前に立てたところで、美奈子の話が本題に入ったようだ。たぶん、こちらの小言には気づいていない――とは、孝治は思っているけど。
「そないなわけでおまして、ここらへんで息抜きも兼ねまして、南西諸島{なんせいしょとう}のひとつの島にでも立ち寄りたい、こう思うておりまんのやけど、皆はんのご意見はどないでっしゃろなぁ?」
「美奈子さん、本心から遊ぶ気満々やねぇ☻」
「まあ、今回の船旅は冒険やのうて、ほんまもんのレジャーなんやけねぇ☺」
孝治の今度の小さなツッコミには、友美も指を立てなかった。ここで同席している秋恵が右手を挙げた。
「美奈子先生、質問ばってんが☝」
「はい、秋恵はん☛」
すぐに美奈子がご指名。秋恵は椅子から立ち上がった。ちなみに彼女の位置は、美奈子の真正面。その秋恵が尋ねた。
「立ち寄るっちゅうばってん、どこん島に立ち寄るとですか?」
至極もっともな質問である。孝治も『そうっちゃねぇ✐』などと、ウンウンうなずいた。するとこれまたすぐで、美奈子が明解に、その問いに答えた。
「はい、この南西諸島には地図にも載っておまへん名も無い小島がけっこうぎょうさんあるもんでっせ☺ そやさかい、その中のひとつに寄ったらええんとちゃいまっか✌♪」
「要するに、無断上陸っちゅうことやね☻」
孝治も簡単に納得した。そこへ右の耳に、この場で勝手に無断同席している涼子が、ささやきかけてきた。
『あたしも思うっちゃけど、美奈子さん、さっき孝治と友美ちゃんが言うたとおり、ほんなこつこん船旅ば、遊びとレジャーっち思いようみたいっちゃねぇ☀ あたしが見て思うたっちゃけど、美奈子さんの目ん玉、完全に楽しみで輝きようみたいやけ♐☆』
「そげん言う涼子かて、実は上陸に大賛成なんやろ☻」
横から友美に突っ込まれても、涼子は全然平気でいた。
『うん、もちろんちゃよ☺✌』
「まっ、おれたち三人、おんなじ頭と思うっちゃけどね☻」
「実はわたしもね☻」
これまたもちろんであるが、孝治と友美にも、美奈子に反対する気はなかった。秋恵と千秋・千夏姉妹は訊くに及ばず、とにかくこれにて、南西諸島行き(つまり道草)が決定した。 (C)2018 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |